育児に介護と様々な事情から仕事を辞めたくはないけれど、遅刻や早退が続いてしまったり、体調が優れない日々が多くなったり、周囲の目が気になったりと悩ましい日々が続いている方に心強い「時短勤務」という働き方。
周囲にも理解してもらった上で働けますし、自分も納得した生活ができるでしょう。
ところが、稀に「時短勤務なのに残業が発生する」という予期せぬ出来事に遭遇してしまうことがあります。
そこで、時短勤務の人が残業をすることは違法に当たるのかと、時短勤務の人がもし残業してしまったときの給与の扱いについて、詳しくご紹介します。
時短勤務とは?
出産に伴う産休と育休後、仕事に復帰したときに、こどもの保育園への送り迎えなどの育児のために勤務時間を短くすることのできる「時短勤務」は雇用形態にかかわらず利用できる制度です。
時短勤務の前に考える育休制度とは?
まずは育休制度から見てみましょう。
2021年6月に公布された「改正育児・介護休業法」では、育休の取得要件から「引き続き雇用された期間が1年以上」の事項が撤廃され、労使協定での決まりがなければ、2022年4月1月からは子どもが「1歳6ヶ月までの間に契約満了することが明らかになっていない」という要件を満たしていれば、無期雇用・有期雇用関係なく利用できるようになります。
このことから、一般的に1歳6ヶ月までの間は時短勤務より育児制度を取る人が多くいますが、最近では0歳児から受け入れる保育施設も多く、時短勤務で職場復帰を急ぐ人も少なくありません。
時短勤務とは?
本題となる時短勤務についても、育児・介護休業法で定められています。
- 3歳に満たない子を養育する労働者であること。
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと。
- 日々雇用される者でないこと。
- 短時間勤務が適用される期間に現に育児休業をしていないこと。
- 労使協定により適用除外とされた労働者でないこと。
すべてに該当するのであれば派遣社員であっても時短勤務で働ける権利があり、「所定の労働時間を短くする」「保育園に子どもを預けてから出社できるよう、出社時間を遅らせる、退社時間を早める」「出勤時間や退社時間を変えられるフレックスタイム制にする」など働き方を変えることが可能です。
ただ、時短勤務に理解がある職場では「時間だよ」と上司から声をかけてくれることもありますが、逆に早く帰ることを迷惑そうにされる職場もあります。
企業や部署によって雰囲気に違いがあることは理解しつつも、時短勤務は幼い子どもを育てながら働くために重要な働き方ですので、少子化対策で導入された職場では気を使いつつ上手に制度を活用していきましょう。
時短勤務の人に残業させてもOKか!?
子どもを保育園に預けられて仕事に時短勤務で復帰をしたけれど、「残業を頼まれることは本当にないのか不安」「残業を頼まれた場合はどうしたらいいのか」と悩む人は少なくありません。
そこで重要なのが、どういうときには残業を断れるのか、残業をしなければならないのかを確認することです。
時短勤務でも残業は法律上可能
時短勤務の条件を満たしている場合でも、時短勤務の残業自体について禁止しているという法律はありません。
残業を頼まれることが法律違反ということにはなりませんが、時短勤務者の場合は残業時間について通常勤務者より制限があることが育児・介護休業法の17条で定められている点だけ理解しておきましょう。
- 1ヶ月に24時間以内であること
- 1年で150時間以内であること
(参照:e-GOV法令検索『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』第十七条)
免除申請があれば残業を強制できない
基本的に残業自体が禁止されているわけではありませんが、育児・介護休業法によって、従業員から申請があった場合、残業を免除しなくてはならない場合があります。
- 3歳に満たない子を養育する労働者が、子を養育するため
- 要介護状態にある対象家族を介護する労働者が、その家族を介護するため
免除申請は制限開始予定日の1カ月前までに、1回につき1カ月以上1年以内の期間で請求することができ、3歳に満たない子どもを育てている場合には、請求回数には上限がないため、何度も請求可能となっています。
子どもが3歳以上の残業免除申請については企業の努力義務となっていて、会社によって対応が分かれてくるため、3歳になった途端残業が当然となってくることや、反対に小学校卒業まで残業免除を認めてくれることもあります。
免除申請があっても残業免除の対象外にできる場合がある
3歳に満たない子を養育していて免除申請をしている場合でも、残業免除の対象とならないことや請求を拒否できる要件について確認しておきましょう。
残業の免除をすることで事業の正常な運営が難しくなる場合には、残業の免除を申請されていても企業は残業の免除を拒めると定められており、他にも労使協定によって「入社1年未満の労働者」「1週間の所定労働時間が2日以下の労働者」などと取り決めがある場合には、残業の免除の対象となりません。
(参照:e-GOV法令検索『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』第六条)
時短勤務中に残業した場合の給料は?
制度として時短勤務を利用しているのに関わらず、残業をさせられることが多い場合や、理解があるけれど仕事が終わらずに時間ぴったりに切り上げられない場合もあるでしょう。
まったく残業をしないというわけにいきませんが、時短勤務中の残業の給料はどのように計算されるのでしょうか。
残業には2種類ある
残業には「法定内時間外労働」と「法定外時間外労働」の2種類があります。
それぞれ残業に対する扱いが変わるため、給料の支払いについても関わってくるため、どういう違いがあるのかしっかり理解が必要です。
法定内時間外労働
時短勤務をしていても、労働基準法で定められている「1日8時間、1週間で40時間」という法定労働時間の原則は変わりません。時短勤務は会社の就業規則や雇用契約書に記載され、企業が自由に定められる「所定労働時間」ということです。
すなわち労働時間が8時間以内、1週間で40時間の「法定内時間外労働」である場合、残業代である25%の割増賃金の対象外となります。
もし6時間の時短勤務を実施している社員が1時間だけ残業した場合には「法定内時間外労働」に該当し、会社に割増賃金の支払い義務はない(通常の賃金)ということになります。
法定外時間外労働
時短勤務であっても残業時間が長く、1日8時間または1週40時間を超えて働いたという場合は「法定外時間外労働」にあたり、会社は残業時に25%の割増賃金の支払い義務があります。
時短勤務中の給料を計算してみよう
基本時給が1,500円の派遣社員で、所定労働時間が1日6時間の会社で働いている場合には、どのぐらいの賃金になるのか、1ヶ月の勤務を22日と仮定して計算してみましょう。
法定内時間外労働のみの場合
残業時間が1日2時間以内または1週間で40時間以内に収まっている場合は、残業をしていてもすべて法定内時間外労働となるため、毎日1時間行っていた場合でも割増賃金は含まない計算となります。
法定外時間外労働があった場合
残業時間が1日2時間以上または1週間で40時間以上になった場合は、法定時間外労働となり、割増賃金の対象となるため、残業時間が1日3時間となった日が1ヶ月に12日あった場合、法定内時間外労働は24時間、法定外時間外労働は12時間となり、その分だけ割増料金が付くことになります。
(時給1,500円×6時間×10日)+(時給1,500円×8時間×12日)→法定内時間外労働23万4,000円
時給1,500円×125%×12時間→法定外時間外労働2万2,500円
法定内時間外労働23万4,000円+法定外時間外労働2万2,500円→25万6,500円
時短勤務するには会社や他の社員の協力が必要
時短勤務は多くの労働者に認められている働き方であり、3歳未満のこどもを育てている場合に申請ができます。
また残業をする必要があるのか、給料の計算方法はどうなるのかを確認してきましたが、問題なく時短勤務を活用するにはどのようなポイントを押さえるとよいのかをチェックしておきましょう。
時短勤務を利用する方法を確認する
時短勤務は制度として義務づけられていますが、会社によって仕組みや独自の制度を導入しているケースもあるため、所属している会社の就業規則を詳しく確認しておきましょう。
産休に入る前に、いつ育休から復帰をする予定で、どのような時短勤務をしたいのかを会社へ相談しておくことをおすすめします。育休からの復帰が決まったら、遅くとも1ヶ月までを目安に、改めてどのように働きたいかを伝えることで、復帰がスムーズに進むでしょう。
時短勤務中に抱きやすい不安を確認しておく
時短勤務で仕事と育児を両立しようと奮闘しても、以下のような悩みが多く挙げられています。
- 前と同じように働けないことにジレンマやいらだちを覚える。
- 職場に理解がない人がいて、嫌な態度を取られる。
- 人よりも早く帰ることで上司や同僚に迷惑をかけていると申し訳ない気持ちになる。
- せっかく時短勤務をしているのに、業務量が変わらないため仕事が終わらず、残業や仕事を持ち帰る日が多い。
- 勤務時間が短くて給料が下がってしまう。
時短勤務を利用するにあたって、こういった苦しみに苛まれないよう、利用する前に把握しておくことが大切です。
時短勤務を成功させるためのポイント
成功させるために、5つのポイントをチェックしてみてください。
上司や同僚と仕事内容を共有しておく
時短勤務をしていても、子どもは急に熱を出すことが多く、突然休んだり、勤務時間内に保育園からお迎えの要請が入ることも珍しくありません。
不測の事態に備えて、いつでも業務を引き継いでもらえるように、小まめに進捗や状況を報告・共有しておくようにしましょう。
仕事内容をわかりやすく整理しておく
突然の休暇や早退した場合、仕事を共有していた上司や同僚以外の方に仕事が割り振られる機会もあるため、日頃から誰が見てもわかりやすい資料を作っておいたり、業務内容や手順を整えておいたりしておきましょう。
こうすることで、自分の代わりに対応してくれる方への負担が小さくなり、スムーズに引き継ぐことができます。
仕事の効率化に努める
勤務時間が短くなり、お迎えのために残業できない分、仕事をテキパキとこなさなければ仕事を終わらせられません。
そこで何を優先させるべきか、省ける工程がないかどうか、翌日以降でいい業務は後回しにするなど自分の仕事を見つめ直し、合理化させておけば、残業や引き継ぎをせずに仕事を終わらせられるようになります。
相談できる仲間を作っておく
同じく時短で働いている仲間や同じ経験、苦労を重ねている先輩や仲間に悩みを相談することによって、気持ちを楽にできたり、具体的な解決法を見つけられます。
実際に傍にいる方でも、インターネット上でも、同じ苦労をしている仲間を見つけておくことで、勇気づけられ、落ち込むようなことがあったときにも強い支えとなります。
家族と協力しあう
残業ができず仕事が終わらない、毎日同僚に負担をかけてしまうといった事態が続くと、時短労働をしていてもストレスとなってしまう可能性もあります。
どちらかが時短勤務をしているとしても、融通の利く時間を調整して残業をできる日を設けることで、職場の理解を得られたり、心苦しさを軽減できたりと、仕事を長く続けられることに繋がります。
仕事はチームワークで行い一人で悩まないことに注意!
悩んだときには1人で抱えるのではなく、打ち明けたり相談に乗ってもらえる上司や同じ立場の方と話をしたり、集中して確実に終わらせられるだけの仕事量にできるように上司に掛けあったり、可能な限り不安を少なくできる方法を考えるようにしましょう。
時短勤務は3歳に満たない子どもを育てている社員が申請した場合、残業を免除され、産後の経済不安を抱くことなく子育てを行える支援制度であり、雇用形態関係なく利用できる権利です。
たとえ1人で進める業務があっても、仕事はチームで行うものであり、権利を振りかざすだけでは時短勤務が成立しません。
自身も周囲の協力を得られるように普段から業務内容をわかりやすく整理しておいたり、日頃のお返しを自分のできる範囲で行うということに留意して、一時の時短勤務を乗り越えるようにしましょう!