派遣社員が契約する派遣けんぽの解散、保険料や大手派遣会社の対応はどうなった?

派遣社員の基礎知識

多くの派遣社員がこれまで加入してきた派遣けんぽが、2019年3月末をもって解散となりました。

派遣けんぽに加入してきた派遣社員は、「何をどうすれば良いの?今後どうなるの?保険料は変わるの?」と多くの疑問と不安が募ったことでしょう。

しかし派遣けんぽは国内でも3本の指に入るほどの規模だったのに、何故解散になったのでしょうか。またそれによって派遣社員に与えた影響はどれくらいあるのでしょう。

本記事では、派遣けんぽ解散の理由や別の組合に移行することについて、結局保険料は高くなったのか安くなったのかについてなど詳しく説明します。

派遣けんぽは2019年3月末で解散となった

日本国内で2位の規模だった「派遣けんぽ(人材派遣健康保険組合)」は2019年3月末で解散しました。

派遣けんぽが公表した文面は以下の通りです。

被保険者の皆様へ

先般、所属されている派遣会社を通じてお知らせしたとおり、当健保は今年度末(平成31年3⽉末)で解散し、中⼩企業を中⼼に多くの企業が加⼊する「全国健康保険協会(略称:協会けんぽ)」に移⾏します。皆様には、⻑年にわたり当健保の事業運営に多⼤なご協⼒を賜りましたことを深く感謝申し上げます。

(参考:人材派遣健康保険組合「被保険者の皆様へ 」

この解散報告は全国の派遣会社に衝撃を与え、所属している派遣社員の組合移行手続きに対する迅速な対応が求められました。

派遣けんぽが解散したのは何故?理由は?

派遣けんぽ解散の理由は、朝日新聞でも取り上げられていましたが、加入者の高齢化と65歳以上の医療費を賄うための支出の重さと言われています。

人材派遣健保は2018年度予算で12億円の赤字を想定。積立金を取り崩して穴埋めしている。加入者の高齢化と65歳以上の医療費を賄うための支出の重さから、今回解散を決めた。高齢者の医療費は健保組合の拠出金で一部を賄う仕組みになっていて、高齢化の進展に伴い拠出額は伸び続けている。(引用:朝日新聞デジタル

派遣けんぽは国内2位の規模である組合のため、加入者は非常に多かったのですが、その加入者の高齢化に伴って医療費の支出が大分増えてしまったのですね。

しかも組合は加入者の医療費だけでなく、国に対しても半分以上の額を納付しなければならないため、収益よりも支出の方がはるかに多く存続困難となったのでしょう。

派遣けんぽの解散による派遣社員への影響

派遣会社は派遣けんぽ解散によって、所属している派遣社員の組合移行手続きに対して迅速な対応を心掛けてきました。

ただ派遣社員側には、どんな影響があったのでしょうか。

ここからは、派遣けんぽ解散による派遣社員への影響について説明します。

新たな保険組合へ加入するため保険証が変わった

2019年4月1日以降は、これまで使用していた派遣けんぽの保険証は使用不可になり、新しい保険組合の保険証に変わりました。

多くの派遣会社は郵送で保険証を派遣社員に送付し、同時に派遣けんぽの保険証を回収していましたが、中には手渡しで保険証を渡し、それと引き換えに旧保険証を回収するところもあったようです。

会社によって新しい保険証が届くまでの期間に差があったため、移行期間中は病院などで新保険証と旧保険証を使う人が混在している状況でした。

保険証を返却せずにいた場合、退職した際に派遣会社から届く「資格喪失等確認通知書」が交付されませんので、その後国民健康保険に加入できなくなってしまいます。

基本的に医療保険は二重加入できないことになっているので、健康保険証は忘れずに返しましょう。

ほとんどの人は保険料が変わった

派遣けんぽから協会けんぽへ移行し、ほとんどの人は毎月の保険料が変わりました。

何故なら保険料率は、加入している組合によって異なるからです。

しかも保険には一般保険だけでなく、介護保険もあります。

40歳~64歳の人は、一般保険料だけでなく介護保険料も払わなくてはいけないので、保険料率が変わることでの影響は大きいでしょう。

詳しい保険料の変化については後ほど説明します。

福利厚生が一部受けられなくなった人もいる

派遣けんぽに加入していた派遣会社の中には、福利厚生を充実させているところもありました。

たとえば派遣社員が休日にフィットネスクラブに法人会員として通えたり、旅行やレジャーなどの優待割引などの特典がつくのです。

しかし派遣けんぽの解散に伴って、法人会員としての利用ができなくなったり、特典や優待価格を受けられるといったサービスが一切なくなってしまった会社も少なくありません。

「福利厚生の充実度」を重視して派遣会社を選んだ人もいますから、そういった人にとっては非常に残念な話でしょう。

ほとんどの派遣会社は協会けんぽに移行した

派遣けんぽ解散によって、ほとんどの大手派遣会社は協会けんぽに移行しました。

では、派遣けんぽと協会けんぽの違いはどのようなものなのでしょうか。

そもそも自分の保険組合がどんなものなのか、中身を把握している人は少ないかもしれません。ここからは具体的な違いについて説明します。

派遣けんぽから協会けんぽに移行した大手派遣会社

派遣けんぽから協会けんぽに移行した大手派遣会社は以下の通りです。

  • テンプスタッフ
  • マンパワー
  • スタッフサービス
  • パソナ
  • アデコ

一方、大手派遣会社の「リクルートスタッフィング」や「ランスタッド」は、もともと派遣けんぽではありません。

リクルートスタッフィングでは、リクルート健康保険組合という自社独自のけんぽがあり、ランスタッドでは「関東ITソフトウェア健康保険組合(ITS)」といって、旅行やレジャー、飲食店などの優待が豊富な組合に加入しています。

派遣けんぽと協会けんぽの違い

健康保険は主に以下の4つの種類に分かれます。

  1. 協会けんぽ
  2. 健康保険組合(組合けんぽ)
  3. 共済組合・共済制度(国家・地方公務員など)
  4. 国民健康保険

上記のうち、多くの会社員が加入する組合は「協会けんぽ」か「組合けんぽ」です。

派遣けんぽは正式には「人材派遣健康保険組合」と言い、2番目の組合けんぽに入ります。

1番目の協会けんぽは、全国健康保険協会という団体が運営していて、本部と47都道府県支部での構成です。支部単位で各地域の実情を踏まえて保険料率を決定しているため、都道府県によって保険料率が異なります。

中小などの一般企業の会社員は、協会けんぽに加入していることがほとんどです。

一方、2番目の組合けんぽは、楽天などの大企業が設立し運営しています。一般保険料率は3%~13%の間で設定することができるため、協会けんぽに比べて安く設定しているケースが多いです。

協会けんぽに移行したら保険料はどうなった?

派遣けんぽから協会けんぽに移行したら保険料は高くなったのでしょうか、それとも安くなったのでしょうか。以下の図を見てみましょう。

平成30年度の派遣けんぽと協会けんぽの一般保険料率を比較すると、派遣けんぽでは保険料率が9.70%だったのが、協会けんぽに移行することで9.90%になってしまい、保険料は年間で約2,500円ほど上がってしまったことが分かります。

ただ厳密に言うと、派遣けんぽの9.70%よりも保険料率が低かった県は新潟県と長野県だけだったので、その2つの県の人たちは保険料が上がっていません。しかしその他の都道府県に住む人は皆、保険料が上がってしまったのです。

では派遣けんぽの方が得だったのかというと、そうとも言えない状況になりました。

もし派遣けんぽが解散しないで存続した場合、平成31年度には一般保険料率が10.08%に引き上げられると予測されるため、全国平均保険料率が10%の協会けんぽの方が安く済むことになるのです。

つまり、一時的には保険料は上がりましたが、長い目で見ると安くなったと言えるでしょう。

都道府県別保険料率は以下の通りです。

(参考:全国健康保険協会「平成31年度都道府県単位保険料率」)

都道府県名 保険料率 都道府県名 保険料率
北海道 10.31% 滋賀県 9.87%
青森県 9.87% 京都府 10.03%
岩手県 9.80% 大阪府 10.19%
宮城県 10.10% 兵庫県 10.14%
秋田県 10.14% 奈良県 10.07%
山形県 10.03% 和歌山県 10.15%
福島県 9.74% 鳥取県 10.00%
茨城県 9.84% 島根県 10.13%
栃木県 9.92% 岡山県 10.22%
群馬県 9.84% 広島県 10.00%
埼玉県 9.79% 山口県 10.21%
千葉県 9.81% 徳島県 10.30%
東京都 9.90% 香川県 10.31%
神奈川県 9.91% 愛媛県 10.02%
新潟県 9.63% 高知県 10.21%
富山県 9.71% 福岡県 10.24%
石川県 9.99% 佐賀県 10.75%
福井県 9.88% 長崎県 10.24%
山梨県 9.90% 熊本県 10.18%
長野県 9.69% 大分県 10.21%
岐阜県 9.86% 宮崎県 10.02%
静岡県 9.75% 鹿児島県 10.16%
愛知県 9.90% 沖縄県 9.95%
三重県 9.90%

東京都は9.90%と全国平均の10%を下回る保険料率ですが、一番低い県は新潟で9.63%、一番高い県は佐賀で10.75%でした。

なお、40歳から64歳までの人(介護保険第2号被保険者)は、これに加えて介護保険料率の1.73%を支払う必要があります。

保険証を移行することで申請し直さなくてはいけない手当

保険証を移行する手続きは、基本的に派遣会社が行いますので、自分で進めるべき手続きはありません。

しかし以下のような手当を受け取っている人・証書を持っている人は、改めて交付申請をし直す必要があるので注意が必要です。

  • 出産手当金
  • 傷病手当金
  • 特定疾病療養受療証
  • 限度額適用認定証
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証

上記のような手当を受け取っている、もしくは証書を持っている人で、平成31年4月以降も引き続き使用したい場合は、改めて協会けんぽに交付申請しなくてはいけません。その際は、協会けんぽの申請用紙を使用しましょう。

なお、特定疾病療養受療証を申請する際に必要な医師の証明や、限度額適用・標準負担額減額認定証を申請する際の非課税証明書は、交付申請書に現在の受療証や認定証を添付することで省略可能となっています。

また、子供がいる場合は以下のような証書を持っている人も多いですよね。

  • 福祉医療費受給者証
  • 子ども医療証
  • 子ども医療費受給者証
  • 母子家庭等医療費受給者証
  • ひとり親家庭等医療医療証など

上記の証書は地域によって名称が異なりますが、保険証を移行すると共に切り替え申請が必要な場合が多いので、詳しくは管轄の役所に確認してみましょう。

派遣けんぽ解散についてのQ&A

ここまで派遣けんぽと協会けんぽ違いなど、沢山のことに触れました。

ただ、新しい保険証に移行した後の保険加入期間はどのように考えれば良いのか、今後の健康診断や、退職後の任意継続についてなど、気になることはまだありますよね。

ここからは、派遣けんぽ解散についてのよくある質問に答えていきます。

新しい保険証に移行した場合の保険加入期間はどう考える?

保険加入期間は途切れないことがほとんどです。

協会けんぽに移行した派遣社員の保険証の取得日は、平成31年4月1日と表記されていると思いますが、実際の加入期間は途切れていません。

これまでの派遣けんぽでの期間も通算されていると考えて良いでしょう。

移行した後の健康診断はどうなる?

これまでの派遣けんぽでは、年に1回健康診断を受診できました。(派遣会社によって受信できる派遣スタッフの条件は異なる)

協会けんぽに移行した後でも、同じように年に1度の健康診断は受けられるという派遣会社がほとんどです。

ただし健康診断の検査項目や、女性対象の乳がん・子宮頸がん検査の対象年齢も変わる場合が多いでしょう。

協会けんぽに移行後、退職して任意継続したい場合は?

退職する際は、国民健康保険に切り替えるか、任意継続して保険に加入するかを選べます。

任意継続する場合は、退職日の翌日から最長2年間加入することが可能です。ただし保険料は、これまで派遣会社が負担していた分も含めての料金になります。

保険を任意継続するメリットとしては、家族がいる場合に自分1人分だけの保険料で済む点(扶養)だったり、今までと変わらない保険給付が受けられること、また任意継続保険料には上限があるため、これまでの給料が高ければ高い人ほど、保険料が安く済むというメリットが挙げられます。

ただし任意継続するには、退職日より前に2ヶ月以上の通算被保険者期間があることが条件です。30日以内の日雇い派遣の場合は対象外になります。

退職後に任意継続を希望する場合は、退職日の翌日から20日以内に協会けんぽに申出をする必要がありますので、まずは派遣会社に相談しましょう。

大きな変更があった際の派遣会社の対応をチェックしよう

今回は派遣けんぽの解散について説明しました。

ここまでの記事をまとめてみましょう。

まとめ

  • 派遣けんぽは加入者の高齢化と65歳以上の医療費を賄うための支出の負担が大きくなったため2019年3月末で解散となった
  • 派遣社員は派遣けんぽ解散によって、協会けんぽへの移行を余儀なくされた
  • 派遣けんぽの解散によって保険証が変わり、保険料率の変更や福利厚生が受けられなくなった人もいる
  • テンプスタッフ、スタッフサービス、マンパワー、アデコ、パソナなどの大手派遣会社の多くは派遣けんぽから協会けんぽに移行した
  • 協会けんぽに移行することで平成30年の保険料率は上がったが、派遣けんぽが存続した場合を考えると協会けんぽの方が安く済むケースがほとんど
  • 派遣けんぽ
    (組合けんぽ)
    協会けんぽ
    企業
    規模
    大企業 中小企業
    (一般企業)
    保険料率 3%~13%の
    間で
    設定可能
    都道府県によって
    保険料率が異なる
    全国平均は10%
  • 平成31年の協会けんぽの保険料率は全国平均で10%、東京9.90%、一番低い県は新潟で9.63%、一番高い県は佐賀で10.75%

  • 協会けんぽに移行するにあたって、出産手当金や傷病手当金などの手当を受け取っている人や、特定疾病療養受療証、限度額適用認定証、限度額適用・標準負担額減額認定証を持っている人は、改めて交付申請をし直す必要がある
  • 子供がいる人の場合は福祉医療費受給者証や子ども医療証、ひとり親家庭等医療医療証などの切り替え手続きが必要か管轄の役所に確認すると良い
  • 保険証が切り替わっても、これまでの派遣けんぽでの期間は通算されている
  • 協会けんぽに移行しても、年に1度の健康診断は受けられる
  • 協会けんぽ移行後の退職で保険を任意継続するには、退職日の翌日から20日以内に協会けんぽに申出をする必要があり、退職日より前に2ヶ月以上の通算被保険者期間があることが条件

派遣けんぽ解散によって、保険料率が変わった人がほとんどです。

普段から自分が加入している組合の保険料率を意識している人はあまりいないでしょうから、この機会に自分の地域の保険料率をチェックしておきましょう。

また、今回の派遣けんぽ解散のような大きな変更がある時こそ、派遣会社の迅速な対応が問われます。

説明不足な派遣会社や、派遣スタッフが納得できない進め方をしていると思った場合は派遣会社を変えてみるのも良いのではないでしょうか。