派遣社員の業務は契約書に定められているものに限定されるので、記載のない業務はできません。また、労働者派遣法で禁止されている仕事、専門性の高い仕事、労働者の安全確保が難しい業務なども、派遣社員はできません。
このコラムでは派遣社員にやらせてはいけない業務を詳しく紹介すると共に、派遣社員がやってはいけない業務を派遣先企業に指示された場合の対処法を紹介しています。
Contents
派遣社員にはやらせてはいけない業務がある
派遣社員の仕事は派遣契約で定められた範囲内の業務に限るので、契約書に記載のない仕事をする義務はありません。また、通称「労働者派遣法」と言われる「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」及びその施行令等で派遣が禁止されている業務もできません。
派遣先企業と派遣労働者の間で知らないうちに契約違反にならないためには、派遣労働者ができない業務としてはいけない業務を指示された際の対処法を知っておく必要があります。
派遣社員がしてはいけない業務とは
契約外の業務をしなくては良いだけではなく、派遣労働者は労働者派遣法で禁止されている業務に就くことはできません。派遣法で派遣労働者が禁止されている業務と、禁止されている理由を解説します。
労働者派遣法で派遣が禁止されている業務について
派遣法では業務の専門性の高さや労働者の安全確保の面から派遣が禁止されている業務があります。派遣法の適用除外業務は以下の通りです。
派遣が禁止されている業務
- 港湾運送業務
港湾における、船内荷役・はしけ運送・沿岸荷役やいかだ運送、船積貨物の鑑定・検量等の業務 - 建設業務
土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの準備の作業に係る業務 - 警備業務
事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地における、または運搬中の現金等に係る盗難係や、雑踏での負傷等の事故は発生を警戒し、防止する業務 - 病院・診療所等における医療関連業務
医師、歯科医師、薬剤師の調剤、保健婦、助産婦、看護師・准看護師、栄養士の業務(可能の場合もある)
上記各業務に関しては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」第四条、及び「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」第二条で決められています。
- 弁護士、外国保険労務士等のいわゆる「士」業務
弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務や、建築士事務所の業務等
(公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士等の業務では一部で労働者派遣は可能)
弁護士や社会保険労務士などのいわゆる「士業」は派遣法の適用除外業務ではありませんが、当該業務の定める各法令の趣旨から 派遣が禁止されています。
【参考】
・労働者派遣の禁止業務|一般社団法人日本人材派遣協会
・派遣先の「コンプライアンス」-一般社団法人日本人材派遣協会
・労働者派遣事業を行うことができない業務は-厚生労働省
派遣が禁止されている業務の中でも一部派遣が可能な業務があること、業務を行う場所や頻度、適用除外業務との類似性が高い場合には派遣禁止業務と見なされる場合があることなど、派遣可能か否かを明確に分けることは難しく、派遣会社でも判断に迷うケースは多いです。
派遣社員に派遣が禁止されている業務を指示していた場合、派遣先企業は行政処分が下されます。
違反にあたらないよう企業が派遣会社に派遣を依頼する際には業務内容を詳細に説明し、派遣禁止にあたる業務に派遣労働者を受け入れない、判断に迷う場合は派遣を依頼しない、どうしても適用除外業務か否か判断しなくてはならない場合には各都道府県労働局の労働者派遣担当の組織に判断を委ねる、といったことが求められます。
派遣が禁止されている理由
派遣が禁止される業務があるのは、派遣法をや各業務に関する法律で専門性の高い業務であることや労働者の安全を考慮しているためです。
万が一派遣労働者が派遣が禁止されている業務と知らずに業務に就いたとしても、労働者自身に罰則などはありませんが、自身の安全確保のためには派遣が禁止される業務の事例や理由を知っておくと安心です。
派遣が禁止されている業務内容と理由を詳しくチェックしていきましょう。
港湾運送業務
船内荷役やはしけ運送といった港湾労働法第二条第ニ号に規定される港湾運送業務は、業務量の変動が大きいことから派遣といった企業外の労働力を頼らざるを得ない状況ですが、労働者の雇用の安定と能力の開発も必要という実情から、「港湾労働法」で導入された「港湾労働者派遣制度」に基づき、労働者の雇用や港湾労働者雇用安定センターのあっ旋により厚生労働大臣の許可を受けた港湾運送事業主間で相互に労働者の派遣が認められています。
厚生労働大臣の許可を受けた港湾運送事業主間での派遣は認められていますが、労働者派遣を行う事業の派遣は認められていないことから、派遣会社からの派遣はできません。港湾労働者派遣制度は6大港(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、関門)に適用されます。
適用除外業務として、港湾で船舶からの荷物の積み下ろし、船舶に積まれた貨物を船舶上での移動と固定、船舶に積んだ貨物や降ろした貨物の荷造り・荷解きなどが該当します。
倉庫内の作業であっても、厚生労働大臣が指定した地域内の倉庫は適用除外業務と見なされます。貨物の箇数計算や譲渡の証明などは適用除外業務には含まれません。
【参考】
・港湾運送業務|労働者派遣の禁止業務|一般社団法人日本人材派遣協会
・厚生労働省:港湾労働対策
建設業務
建設工事現場で土木、建築その他工作物に関する作業を行う建築業務は、受注によって業務の有無が左右されるので、建設労働者の雇用の安定を図るために派遣法とは別に厚生労働大臣の認可・許可を受けた事業主会員間で労働者の送出・受け入れを可能とする「建設業務労働者就業機会確保事業」に基づき、現場ごとに適した労働力になるよう労働者の人数を調整しながら雇用の安定を図っているので、労働者派遣はできません。
ビル・家屋などの建築現場での資材の運搬や組み立て、道路・河川・橋・鉄道・港湾・空港などの開設や修繕を行う工事現場での掘削・埋め立てや資材の運搬・組み立て、建築・土木工事でのコンクリートの合成や建材の加工などが適用除外業務と見なされます。
ただし、施工計画の作成、工程管理、品質管理といった建設現場で事務職員が行う作業は適用除外業務に含まれません。
パーテーションの設置やイベントで使用するテントの設営といった簡易的な作業でも、建築・土木工事現場と同じように扱われて適用除外業務と見なされる場合があるなど、作業工程だけでは適用除外業務か否か判断が難しい作業も多いです。
【参考】
・建設業務|労働者派遣の禁止業務|一般社団法人日本人材派遣協会
・建設業務労働者就業機会確保事業|一般社団法人 全国建設業協会
警備業務
警備業務は事務所や住宅などの運搬中の現金の盗難、雑踏での負傷などの事故を警戒・防止といった、警備業法第二条第一項各号に掲げられた業務を行います。警備員の派遣を認めると、労働者が派遣先の指揮命令に応じないことで、警備業法に定められた適正な業務がなされない恐れがあることから労働者派遣が認められていません。
会場や店舗入り口での手荷物検査、不審者や迷惑者への声かけ、建物や会場内の巡回、雑踏や駐車場などでの整理と人や車両の誘導などが適用除外業務と見なされます。
盗難などの事故の防止・警戒を目的とした業務を警備業務と見なすので、受け付け業務で派遣されている労働者が受け付け周辺を徘徊する人に声かけする、販売員として派遣されている労働者がレジ前の客に整列をお願いするといったことが繰り返し行われると警備業務にあたる場合があります。
【参考】
・警備業務|労働者派遣の禁止業務|一般社団法人日本人材派遣協会
・警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針について(通達) 平成15年12月15日
医療関連業務
医師、看護師、薬剤師、栄養士、保健師、助産師、歯科衛生士などの医療関連業務は、専門性が高く人命に関わることから派遣労働者に従事させるのは適切ではないと定められているので、派遣会社が扱うことはできません。
ただし、紹介予定派遣、社会福祉施設といった病院や診療所など以外の施設での業務、産前産後休業・育児休業・介護休業中の労働者の代替業務、へき地・離島の病院や都道府県が地域医療確保のために必要と認めた病院などの医師の業務は派遣が認められています。
士業
弁護士、司法書士、土地家屋調査士、建築士事務所の管理建築士などの業務は、資格を必要とする専門性の高い仕事で人の生活に密接に関わることから、契約期間に定めのある派遣は適さないと見なされ公認会計士や弁理士などの一部の業務を除き、派遣が認められていません。
また、指揮・命令がなくても資格者個人で業務を委託できること、建築士事務所の管理建築士は建築士法で専任でなければならないことが定められていることも、派遣が適さないとされる理由です。
【参考】
・労働者派遣の禁止業務|一般社団法人日本人材派遣協会
・建築士法 – e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口(e-Gov)
派遣社員にやらせてはいけないこと
法律で派遣が禁止されている業務はもちろん、派遣社員は契約書で定められた就業時間や場所、業務内容などに基づいて働かなくてはならないので、契約で定められていないことを派遣先企業の判断で労働者に指示することはできません。
また、派遣社員であっても残業すれば残業代は支払われますが、契約書に残業についての記載がない場合や残業なしで契約している場合には、残業に応じる必要はありません。
契約範囲外の業務
派遣会社と派遣先企業が詳細に決めた派遣契約に基づく仕事が派遣なので、契約で定められていない業務をする、契約書とは異なる時間や場所で働くなどは契約違反となります。契約違反と見なされる、派遣社員が応じる必要がないことを確認しましょう。
契約書にない仕事
派遣会社と派遣先企業の契約では派遣労働者が従事する業務内容を具体的に記載し、複数の業務に従事する場合は全ての業務内容について記載しなくてはなりません。派遣社員は業務内容に記された業務が仕事になるので、業務内容と異なる仕事を派遣社員にやらせるのは契約違反となります。
たとえば、業務内容は電話対応が含まれないデータ入力をする労働者として派遣されたにもかかわらず電話対応を指示されるなど、契約とは明らかに異なる業務をやらされるのは契約違反と分かりやすいでしょう。
しかし、コピーをとるなどの付随業務や雑用までは記載されないこともあり、労働者は契約範囲外の仕事をやらされたと不満を抱きやすいです。
トラブル防止や派遣社員が不信感を抱かないために、派遣会社は業務内容に付随する業務の発生有無を説明する、労働者は業務内容に記載された仕事の範囲はどこまでなのか確認するなど、契約で前提となっている業務の範囲を事前に把握しておくことが大切です。
【参考】
第7 労働者派遣契約 – 厚生労働省
契約なしの出張
派遣の仕事はオフィスワークが多いですが、営業アシスタントなど営業の方とお客様の所へ出張に行く必要が生じる仕事もあります。
出張についても派遣会社と派遣先企業の間で出張費用、期間、手当などの取り決めがされているので、業務上発生し得る出張であっても、出張についての取り扱いを事前に確認しておく必要があります。
派遣契約で明記されていない出張をできないのはもちろん、出張をしても良いことになっていても出張費や手当などの負担でトラブルにならないよう、費用の負担や出張に充てられる時間を確認しておきましょう。
違う部署での仕事
派遣契約では業務内容、就業時間、残業有無などと併せて就業場所や所属部署も明記しなくてはならないので、契約で定められた場所や部署以外での業務は違反となります。
たとえば、事務職として派遣される場合でも、契約で定められた部署や課に所属して働くことになるので、契約とは異なる部署や課で急きょ事務作業ができるスタッフが必要になったからと他部署・課の事務に従事するのは契約違反となる可能性があります。
また、販売職の場合、派遣契約を結んだ店舗とは異なる店舗にヘルプへ行くのも契約違反となります。契約で明記されていない部署や店舗での業務を命じられた際には派遣会社へ相談しましょう。
就業時間後の飲み会や接待
就業時間後の飲み会は業務内容に含まれないので、歓送迎会を目的とした飲み会であっても参加は必須ではありません。
客先での接待は仕事の一環ではありますが、派遣社員は残業無しで契約していることが多いので、参加を強制されることはほとんどありません。参加を依頼された場合、業務内容や就業場所で悩んだ時のように派遣会社に相談し、派遣会社から参加を断ってもらうことをおすすめします。
サービス残業
契約で残業が発生する場合があることを明記していれば1日8時間、週40時間以内に収まる残業であれば派遣先企業は労働者を残業させることは可能で、派遣社員であっても残業すれば残業代は支払われるのでサービス残業は発生しません。
ただし、1日8時間、週40時間を超えて労働させるには36協定の締結が必要で、派遣会社が36協定の締結・届出をしている場合に限り派遣労働者に36協定が適用されるので、派遣会社が締結していなければ、派遣社員は法定労働時間を超える労働はできません。
【参考】
派遣先での労働時間管理の注意点は?
契約にない仕事を指示された場合はどうすれば良い?
契約外の仕事を指示された場合には、まずは派遣会社に契約内容を確認し、契約に無い仕事と判断したら仕事を断ることが重要です。自身で断りにくい時には、派遣会社から伝えてもらうよう依頼しましょう。
契約にない仕事を派遣社員に指示することは契約違反にあたり、派遣先企業にもメリットはないので、労働者と企業の信頼関係を築くためには、労働者が契約内容を把握して契約外の仕事の指示に対しては適切に対処できることが大切です。
派遣として働くなら、してはいけない業務の把握が必須
派遣労働者は、派遣法をはじめとした法令で禁止されている業務や契約外の業務をすることは認められていません。
派遣がしてはいけない業務の指示を受けて労働者が従事した場合、労働者が処分されることはありませんが、自身の安全と安心して働ける環境を確保するためには、派遣がやってはいけない業務を把握し、禁止されている仕事を依頼された際にははっきり断ることが重要です。