定年後に収入を得る方法の一つに、シニア派遣として働くことが挙げられます。定年後も仕事をしたい方にとって、何歳まで働けるのか、同年代と共に働く機会があるのかなどは気になるでしょう。
派遣は正社員と比較すると給料が少なくなりますが、定年後の求人は派遣など非正規雇用の方が正社員よりも多いので、自分の力で稼ぎたいシニアの方におすすめの雇用形態です。
求人数や収入以外にも、定年後に派遣として働くメリットとデメリットはあります。このコラムでは、シニア派遣のメリット・デメリット、定年後に派遣社員として働くことを検討している方の多くが疑問に思っていることを解説しているので、不安を解消した上で定年後の働き方を考えてみてください。
定年後に派遣社員として働くことに関するQ&A
定年後に派遣社員として雇用されると何歳まで働けるのか、直接雇用されていた企業で派遣社員として働き続けることはできるのかなど、様々な疑問があるでしょう。
そこで、派遣社員の働き方や定年後も働き続けている方の割合などに答えていきます。
Q.派遣社員に定年退職などの制度はある?
定年後も今までのように働きたいと考える方にとって、派遣社員にも定年退職があるのか気になるかもしれませんが、派遣には定年の制度も年齢制限もありません。
派遣会社も登録に際して年齢制限を設けていないので、定年後に派遣会社に登録することが可能です。
実際、定年退職後に生活費や万一の備えのための資金を確保するためにシニア派遣で働く方は多いです。
Q.直接雇用の1年禁止ルールは当てはまる?
派遣法の改正により、直接雇用されていた企業(パート、アルバイト、契約社員も対象)で退職後1年以内は派遣社員として働くことが禁止になりました。
しかし、60歳以上で定年退職された方は例外として再雇用が認められているので、正社員として働き続けていた会社を定年退職して1年以内でも、派遣社員として働くことも可能です。
高年齢者雇用安定法の改正で、定年を65歳未満に定めている企業では、雇用している高年齢者が希望すれば定年後も雇用する措置などをとらなくてはならないので、定年が65歳未満の会社にお勤めの方は、退職前に会社に相談しておくと、派遣会社に登録してから就業先を決めるまでの手間を省いて仕事を続けられるでしょう。
ただし、継続雇用先はグループ会社も可能なので、同じ事業所で仕事を続けられるとは限りません。
Q.定年後に働く方の割合は?
定年後に働いている同世代の方がいると、自分もまだ働けるし頑張りたいと思えるでしょう。
内閣府の平成30年版高齢社会白書によると、60~64歳の男性は79.1%、女性は53.6%、65~69歳の男性は54.8%、女性は34.4%の方が就業しています。
60歳を過ぎても半数以上、男性に至っては69歳までの方は働き続けていることが分かります。
70~74歳の男性の34.2%、女性の20.9%は働いていることから、自身の体調などに問題がなければ、定年後も年齢に関係なくできる仕事はあるでしょう。
非正規雇用の割合は55~59歳の男性は12.2%、女性は60.8%に対し、60~64歳の男性は52.3%、女性は76.7%、65~69歳の男性は70.5%、女性は80.8%という結果になっています。
ここから役員を除き60歳を超えると、男女共に非正規雇用の割合が増えることもうかがえます。
仕事をしている60歳以上の42%の方は「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答していて、「70歳くらいまで」、もしくは、それ以上も合わせると79.7%の方が高齢期にも働きたいと回答しているので、定年後も働き続ける同世代の方と仕事を通じて交流することも期待できるでしょう。
定年移行後も派遣社員として働くメリット
派遣社員は年齢制限がなく、60歳以上で定年退職した方には1年以内に直接雇用していた方の派遣雇用を禁止するルールが適用されない点などで、定年退職後も仕事を続けたい方には派遣は働きやすい雇用形態です。
しかし、正社員より給料が少なくなる、働き過ぎると年金受給額が減るなど、シニア派遣にはいくつか注意点もあります。
定年移行後に派遣社員として働くメリットとデメリットをチェックしていきましょう。
定年以降後に派遣社員として働く5つのメリット
派遣社員は正社員よりも自由な働き方を選べるので、仕事以外にご自身がやりたいことのための時間も確保しやすいです。
定年後も仕事をたくさんしたいという場合、派遣社員の経歴を積んでおくと、正社員登用のチャンスがあるので、長く仕事を続けたい方にも派遣として働くメリットは大きいです。
①定年がなく、再就職に有利
同一企業の同じ組織単位(人事課といった〇〇課など)に3年以上、同一の派遣社員を働かせることは派遣法で認められていませんが、60歳以上の方は契約期間の制限がないので、3年を超えても同一企業内の同一組織で働き続けることが可能です。
契約社員には定年がないこと、同じ職場で5年以上働いている派遣社員には直接雇用申し入れの権利が発生することを考えると、定年が60歳の会社の方が定年移行後に5年間同じ会社で派遣として働き続けることができたら、65歳には直接雇用に切り替えてもらえるので、再就職先探しをスムーズに行えます。
②アルバイトやパートよりも時給が高いことが多い
首都圏のアルバイト、パートと派遣の時給を比較すると、アルバイト、パートは時給1,000円未満~ですが、派遣は時給1,500円を超えることは珍しくありません。
職種や経験でも変わりますが、派遣の方がアルバイトやパートよりも時給が高く設定されることが一般的です。
同じ非正規雇用でも時給に差があるのは、両者の募集から採用までにかかる費用と時間に違いがあるためです。
アルバイトやパートを雇用する場合、求人募集広告の作成や掲載依頼、自社で応募者の書類確認や面接で応募者のことをチェックして採用可否を決めます。
未経験者が入社すれば慣れるまで時間がかかったり、場合によっては研修を実施したりと、一人で業務を円滑にこなせるまでに周囲のサポートが必要です。
採用者がなかなか決まらなければ、決まるまで何度も採用面接を行う必要もあるでしょう。アルバイトやパートの時給は、これらの人材確保にかかる費用や時間を考慮して決定されます。
一方、派遣社員を雇用する場合、派遣会社が登録者の経歴などから企業に合う、業務に適正がある、という方を派遣してもらえるので、時間をかけずに即戦力の確保が可能です。
派遣採用であれば、費用も時間も抑えてスキルの高い方と契約できる可能性が高いので、派遣社員の方が時給が高く設定されています。
急いで人材を確保しなくてはならなくなった場合、派遣会社の登録者の方が対応可能なことも多いので、すぐに人を集められるように高時給にしていることもあります。
③働き方を自由に選びやすい
派遣社員は正社員よりも勤務日数や時間、勤務地を自由に選びやすいのが特長です。
派遣は契約時に提示した勤務日数や時間といった条件の下、働けて、基本的に残業を依頼されることもないので、自身のスケジュールに合わせて働くことができるでしょう。
正社員のように転勤もないので、契約期間中は希望のエリアや慣れた勤務地で働き続けることができます。
④経験やスキルを活かした仕事に就ける可能性が高い
派遣会社は豊富な求人の中から、求職者の経歴やスキルを活かせる仕事を紹介します。
企業側も派遣社員には即戦力となる人材を求めていることが多いので、実務経験のある業界や職種であれば、採用される可能性が高いです。
登録者のスキルやTOEICなどの保有資格が業務をこなすことをサポートすると派遣会社が判断すれば、未経験の職種や業界にも挑戦できます。
未経験の業界などで働きたい場合、派遣会社の担当者に業務で求められることを確認し、今までの仕事のやり方や業績を洗い出し、派遣先で役に立てる力があることをアピールすることがポイントです。
⑤正社員よりも雇用されやすい
正社員は派遣社員よりも業務の幅が広く、仕事に求められるスキルも高いので、採用されるまでのハードルが高いです。
一方、業務が限定的な派遣社員の場合、様々なスキルが高くなくても、業務をこなせる専門的な知識や高いスキルがあれば即戦力になると判断されるので、派遣社員の方が雇用されやすいです。
特に、有名企業への正社員採用となると応募は殺到し、競争倍率は高くなります。
派遣採用でも有名企業の人気は高いですが、正社員より求められる条件は低くなる分、雇用される可能性は高いのも大きなメリットと言えるでしょう。
定年以降後に派遣社員として働く3つのデメリット
派遣社員はアルバイトなどよりも時給が高く、定年がなく正社員よりも雇用されやすいので、定年後も働きたい方には魅力的でしょう。
60歳以上の方には契約期間の制限がないので、経歴やスキルを活かせる就業先で働き続けることができれば、直接雇用の可能性もあります。
しかし、正社員と比較すると収入や雇用期間が不安定というリスクは大きく、定年以降後に働き過ぎると年金が減る可能性がある点も、シニア派遣の注意点です。
①契約期間が残っていても会社都合で契約終了となる場合がある
シニア派遣に限ったことではありませんが、派遣社員は正社員よりも雇用契約が会社都合で終了しやすいリスクが高くなります。
派遣先企業が正社員の人員整理を行わなくては倒産してしまう状態にあるなど、社会的に契約解除もやむを得ないと判断される理由がある場合、派遣社員の派遣期間が残っていても、会社都合で契約終了となる場合があります。
派遣契約の契約は短期間の場合があり、契約満了後に契約更新されなければ、同じ派遣先で長期間働くことができないなど、派遣先でいつまで働けるか分からないという懸念があります。
派遣契約が更新されない理由として、労働者のスキルなどが派遣先企業の求めるレベルに達していないことが挙げられます。
派遣社員は正社員ほど高度な知識が求められる業務の幅は広くないので、派遣先企業で求められていることを確実にこなしていけば、契約更新の可能性は高いでしょう。
②正社員と比較して給料が少ない
非正規雇用の中では時給が高い派遣ですが、ボーナスがないことが一般的なので、正社員と比較すると収入は少なくなります。
給料は少なくなりますが、希望勤務地や時間で働ける、残業がほとんどなくて自分の時間を確保しやすいなど、仕事に関するストレスを減らしながら働けるというメリットもあります。
SEや貿易事務といった専門性の高い知識やスキルの必要な職種であれば、時給も高く設定されているので、派遣雇用でもそれなりの収入を得やすいでしょう。
③たくさん働くと年金額が減ってしまう
定年以降後も今までのように仕事を続けたい方は、年齢制限や60歳以上の方の契約期間に制限がない派遣としてたくさん働きたいと考えるでしょう。
ボーナスが支給されないなどで正社員よりも給料が減っても、せっかく働くのであれば可能な限り収入を落とさずに働きたいものです。
しかし、月給の額によっては受け取る年金が少なくなります。生活費やもしもの事態に備えて貯蓄を増やすために仕事を続けていたにもかかわらず、年金額が減ってしまうと、派遣の月収と年金受給額の合計が予定より少なくなる可能性があります。
派遣の月収を得ながら年金も十分に支給してもらうためには、働き方がポイントです。年金を減らさずに仕事を続ける場合、「在職老齢年金制度」を参考にすると派遣の月収目安が分かり、希望の勤務日数や時間が見えてきます。
在職老齢年金制度とは、一定以上の月収がある働く高齢者の年金の減額や支給停止を行う制度です。在職中の老齢年金の計算方法は、60歳から65歳未満と65歳以降で異なります。
計算には「基本月額」と「総報酬月額相当額」が関係します。
基本月額とは加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生(退職共済)年金の月額、総報酬月額相当額とは「(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12」の金額です。
70歳以上の方は、標準報酬月額と標準賞与額は相当する額のものとなります。
下記は在職老齢年金の計算方法です。
60歳以上65歳未満の在職老齢年金の計算方法
基本給と総報酬月額相当額 | 支給金額 |
基本月額と総報酬月額相当額の合計28万円以下 | 全額支給 |
基本月額が28万円以下、総報酬月額相当額が47万円以下 | 基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2 |
基本月額28万円超、総報酬月額相当額47万円以下 | 基本月額-総報酬月額相当額÷2 |
基本月額28万円以下、総報酬月額相当額47万円超 | 基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)} |
基本月額28万円超、総報酬月額相当額47万円超 | 基本月額-{47万円÷2+(総報酬月額相当額-47万円)} |
日本年金機構/60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法
パターンが色々とあるので計算が少し複雑ですが、基準となる金額は「基本月額が28万円より多いか少ないか」「総報酬月額相当額が47万円より多いか少ないか」というポイントを抑えれば大丈夫です。
年金の支給額は減ってしまいますが、もし働けるのであれば働いた方が結果的に総額は多くなります。
65歳以上の在職老齢年金の計算方法
基本給と総報酬月額相当額 | 支給金額 |
基本月額と総報酬月額相当額の合計47万円以下 | 全額支給 |
基本月額と総報酬月額相当額の合計47万円超 | 基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2 |
65歳以上になると計算方法はシンプルになります。
月の報酬金額が47万円以下かそうでないかという部分にだけ気をつければ大丈夫です。
定年後の派遣雇用は働き方のポイントを押さえると長く希望の条件で働ける
60歳以降の派遣雇用には直接雇用されていた企業への1年以内の派遣禁止、同一事業所への3年以上の派遣禁止などが適用されないので、年金以外の収入を自身で稼ぎたいシニアの方におすすめです。
派遣は非正規雇用なので、正社員より給料が少ないなどのデメリットはありますが、希望の勤務地で就業できる、少ない勤務日数や時間での労働も可能で自分のための時間を確保できるなど、自身の希望の条件で働けます。
ただし、働き過ぎて月収が増えると年金受給額が少なくなるので、年金を含めた希望月収を計算した上で、働く時間などをコントロールする必要がある点に注意しましょう。