60歳を超えても派遣で働く選択。派遣と年金合計年収はいくらになる?

派遣社員の働き方

定年を迎え「まだまだ元気だし仕事をしたいけれど求人がうまく見つけられない。」「採用されるか不安だ。」と悩んではいませんか。

そこで提案したいのが60歳以上を対象としたシニア派遣という働き方です。

今回は派遣についてや60代でも派遣で働けるのか、そのメリットとデメリット、年金への影響、そしてどのような求人が多いかなどをまとめたので参考にしてください。

60代でも派遣で働くことができる?

日本の年金制度は変更を繰り返し実に複雑になっています。

いつ支給されるかは生まれた年代によって異なりますが、政府が年金受給開始の年齢を引き上げたいという意向は伝わります。

何より会社を定年退職してすぐに支給されるとは限りませんし、支給されても充分な金額でない場合もあります。

60代でもまだまだ元気で働きたいという方も多く、定年期間を延長してもらえればなれた仕事を続けることもできます。

しかし「延長されない」「今の職場にはいたくない」という方は「派遣」という働き方を検討してみましょう。

ここでは派遣という働き方や何歳まで働けるかなど「60代の派遣」について紹介します。

そもそも派遣とは

労働者派遣法第2条第1号においては、以下の様に定義されています。

労働者派遣

自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。”

派遣労働者

事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるものをいう。

引用:電子政府の総合窓口e-gov「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」

つまり派遣とは「正社員」「パート」などと同じで働き方の1つです。

正社員やパートが雇用契約を結んだ企業で働くのに対し、派遣は登録した派遣会社(派遣元)から別の企業(派遣先)に「派遣」されて働きます。

そのため給与を直接支給するのは派遣会社で、福利厚生も派遣会社のものが適用されるのです。ただし仕事の指示は派遣された企業の担当者から受けることになります。

労働者の雇用主と勤務先との関係

直雇用と派遣の雇用主との勤務先の関係は下の図のようになります。

直雇用はその名の通り勤務先と直接労働契約を結びますが、派遣の場合は間に派遣会社が入ります。

労働者との契約も派遣社員と派遣会社で契約結び、勤務先とは派遣会社と勤務先の会社間で結ぶこととなります。

また表でも簡単にまとめました。

直接雇用の場合 派遣の場合
労働契約を結ぶ相手 A社 派遣元事業主
賃金を支払うの A社 派遣元事業主
社会保険・労働保険の手続を行うの A社 派遣元事業主
勤務先 A社 派遣先のA社
仕事上の指揮命令を行うの A社 派遣先のA社
年次有給休暇を付与するの A社 派遣元事業主
休業の際の休業手当を払うの A社 派遣元事業主

出典:厚生労働省「派遣で働くときに特に知っておきたいこと」

派遣スタッフは登録しただけでは雇用関係は成立しておらず、仕事を紹介されて派遣先が決まって初めて派遣会社との雇用関係が成立します。

その雇用契約は派遣期間の終了とともに一旦終了するのです。

そして派遣会社の登録を解除していなければ次のお仕事を引き続き探したり紹介を受けたりすることが可能で新しい派遣先が決まると再び雇用関係が成立します。

60代の派遣について

ここからは60代の派遣についてQ&A形式で紹介します。

Q1. 60歳からはじめたひとはいつまで働けるの?

A:年齢制限はないので働こうと思ったらいつまでも働くことが可能です。

派遣会社も登録に関して年齢制限を設けていません。

あとは派遣先の会社がいつまで更新してくれるのかということだけになりますが、今は健康でも体調が崩れたり、家庭の事情ができたりと環境も変わるため、一概にいつまでと決めずに働かせてもらえる環境を大切にしていく気持ちでいるのが良いでしょう。

Q2.そもそも派遣社員に「定年」などの制度はあるのか?

A:定年の制度はありません。

派遣は60代以降も登録して仕事を紹介してもらえれば働くことが可能です。

参照サイト:派遣で働くときに特に知っておきたいこと|厚生労働省

派遣のメリットとデメリット

60代以降も派遣で働くことは可能ですが、そのメリットとデメリットを確認しておきましょう。

派遣で働くメリット

派遣で働くことのメリット4つを紹介します。

メリット1. 正社員に比べて働き方が柔軟に選択可能

働く時間、勤める地域などを選択しやすいです。

また派遣会社の担当者がいることから、勤務先に伝えにくいことを相談することもできます。

メリット2. 経験や専門スキルを活かしやすい

自分の経験や専門スキルを活かせる仕事を見つけやすいです。

また経験とスキルに合わせた仕事となるのでやりがいを感じられる可能性が高くなります。

メリット3. アルバイトやパートと比較して時給が高い

派遣社員はアルバイトやパートと比較して時給が高いことが多いです。

ただし、派遣の場合は、社会保険、退職金、ボーナス、交通費、昇級などがありません。

正社員はすぐに解雇をすることはできないのですが、派遣社員に関してはそれに当てはまらないため、そのリスクも含めての時給の高さとなるでしょう。

正社員よりも雇用されやすく、フルタイム勤務がしやすい

登録している派遣会社が紹介してくれれば、基本的に派遣先企業で面接などをせずに働くことができます。

また、労働時間を選びやすいのでフルタイムも選択しやすいです。

派遣のメリットをまとめると自由度と時給の高さと言えます。

派遣で働くデメリット

今度は派遣で働くことのデメリット4つを確認します。

デメリット1. 会社都合で契約を終了される可能性がある

派遣スタッフは派遣先と雇用契約を結んでいるわけではありません。

そのためプロジェクトや運用面などで問題があった場合、最も切りやすいポジションにいるのです。

そのため契約期間が残っていても、会社都合で契約を終了される可能性があります。

デメリット2. 正社員と比較すると給与額は少ない

バイトに比べると時給が良い派遣ですが、正社員と比較すると給与額は少ないです。

中には正社員並に稼ぐ派遣社員もいますが、時給換算以外の部分で正社員が享受できる福利厚生などを考えると実質的な給与額が低くなることが多いです。

また、ボーナスや退職金、そして昇給制度も基本的にありません。

デメリット3. 基本的に契約上定められた範囲の業務しか行えない

派遣法第39条では派遣先は派遣スタッフに契約上定められた範囲以外の業務をさせてはならないと定めています。

第三十九条

派遣先は、第二十六条第一項各号に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項に関する労働者派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講じなければならない。

(適正な派遣就業の確保等)

引用:電子政府の総合窓口e-gov「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」

本来、派遣スタッフが派遣先に不当に仕事を増やされないように配慮された法律ですが、派遣先でのスキルアップに制限を生む副作用が生まれてしまいました。

デメリット4. やりたい仕事が常にあるとは限らない

1つの契約が終わっても、すぐに次の仕事があるとは限りません。

そのためブランクが生まれる恐れがあります。

派遣で1番大きなデメリットは不安定さと言えます。

やりたい仕事がタイミング良くあるとは限りませんし、何かあった場合は最も切られやすいポジションにいるのです。

メリットとデメリットを確認しましたが、派遣という仕事のスタイルは単純に良いとも悪いとも言えません。働く人の立場により変わってしまうからです。

そのため派遣で働くメリットが大きいかどうかは自分自身で慎重に判断しなければなりません。

年金だけの収入と派遣も合わせて行った時の資産の増え方の差

60代でも派遣で働いて収入を得ることが可能であることを確認してきました。

それでは年金だけの収入と年金に派遣で得た収入を加えた場合、資産の増え方にどれだけ違いが生まれるのかを確認してみましょう。

年金だけの収入

年金だけでどれだけ収入が得られるのでしょうか?

平成 31 年度の新規裁定者(67 歳以下の方)の年金月額の例

年金の種類 平成31年度(月額)
国民年金 65,008 円
厚生年金 221,504 円

※厚生年金は平均的収入(賞与含む月額換算:42.8万円)の夫が40年就業した世帯が年金を受け取り始める場合の給付水準です。

妻は40年間専業主婦だったと想定しています。(参考URL:平成31年1月18日厚生労働省発表「平成31年度の年金額改定について」)

この例だと厚生年金の場合、月額22万円以上になり夫婦二人なら生活することは不可能ではありません。

しかし国民年金の場合は約6万5千円、厚生年金と同じ条件で夫婦2人が国民年金に加入していたとしても13万円(6万5千円×2)とこの収入だけで生活していくのは困難です。

年金だけの収入(年間)

年金の種類 計算の内訳 合計金額
国民年金 65,008円(月額平均)×12(ヵ月)×2人 1,560,192円
厚生年金 221,504円(月額平均)×12(ヵ月) 2,658,048円

こちらも国民年金は夫婦で加入しているものとし、厚生年金では妻は40年間専業主婦だったとして計算しています。

国民年金の年収は夫婦で約156万円、厚生年金は扶養家族の妻がいて約266万円です。

派遣+年金の収入

次に派遣で収入を得た場合はどれぐらいになるかをシミュレーションしてみましょう。

派遣の平均年収(60代)はどれぐらいになるのでしょうか?

派遣社員の平均時給から平均月収と平均年収を計算しました。

平均時給 平均月収 平均年収
1,630円 286,880円 3,442,560円

参考サイト:派遣スタッフ募集時平均時給調査(2019年度12月)|リクルートジョブズリサーチセンターより

以上より60代の方が派遣で働いた年収を344万円と仮定します。

上記の金額に年金の合計を算出します。

なお厚生年期は夫と専業主婦の厚生年金、国民年金は夫婦2人の合計としています。

派遣+厚生年金の場合

派遣社員の年収 年金収入 合計
344万円 266万円 610万円

平均時給1,630円で計算した派遣の年収に、厚生年金(妻は40年間専業主婦だったと想定)の年収を加えると約610万円となります。

派遣+国民年金の場合

派遣社員の年収 年金収入 合計
344万円 156万円 500万円

今度は派遣の年収に、国民年金(夫婦2人分の合計)を加えたところ約500万円になります。

派遣をやるのとやらないのとで年間344万円ほどの違いがあり、5年ほど派遣を続ければ1,700万円、10年続ければ3,400万円ほど年金だけの収入と差が生まれます。

※派遣の年収額は「派遣スタッフ募集時平均時給調査(ジョブズリサーチセンター)」の2019年度12月の金額を基にしており、実際の給与とは大きく異なる可能性があります。

また年金は在職しているとその給与金額により減額される場合があり、あくまでこの結果は単純計算によるサンプルです。

年金の減額については後ほど詳しく紹介します。

参照サイト:平成31年1月18日厚生労働省発表「平成31年度の年金額改定について」

定年後に派遣社員として働く際の注意点

派遣で働くと収入面がだいぶ良くなり生活も安定させられますが、その一方で注意しないといけない点もあるので必ず確認しておきましょう。

働きすぎると年金が減らされる恐れがある

在職し厚生年金の被保険者の場合、老齢厚生年金(高齢になった時に受け取れる年金)の基本額と総報酬月額相当額に応じて年金が支給停止になってしまう恐れがあります。

また支給額の計算方法は60~64歳の場合と65歳以上で違いがあるため注意が必要です。

60~64歳を対象とした年金支給月額の計算式

60歳以上64歳以下の方で厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受けるときは、総報酬月額相当額と基本月額によって年金が支給停止される場合があります。

総報酬月額相当額とは1年間の給与とボーナスを足して12で割った金額で、基本月額とは年金の1年分の金額を12で割った金額です。

支給額の計算方法は以下の5つに分けられます。

条件 計算方法
総報酬月額相当額と基本月額の合計が28万円以下 支給停止額は0円で全額支給
総報酬月額相当額47万円以下で基本月額28万円以下 基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×0.5
総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円超 基本月額-総報酬月額相当額×0.5
総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円以下の場合 基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)×0.5+(総報酬月額相当額-47万円)}
総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円超の場合 基本月額-{47万円×0.5+(総報酬月額相当額-47万円)}

参照サイト:日本年金機構 「60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法」

60~64歳までは、在職しつつ年金を全額もらうには総報酬月額相当額と基本月額の合計を28万円以下に抑えなければなりません。

総報酬月額相当額が47万円を超えるか以下か、基本月額が28万円を超えるか以下か、この2つの金額の組み合わせによって支給額が変わります。

65歳以上を対象とした年金支給月額の計算式

支給停止になる基準額が65歳以上では上がり、計算方法は下の表の2つです。

条件 計算方法
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以下 支給停止額は0円で全額支給
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円超 基本月額−(基本月額+総報酬月額相当額−47万円)×0.5

全額受取れる総報酬月額相当額と基本月額を合わせた上限が47万円となり、60~64歳までと比べ19万円も高くなっています。また計算方法も47万円超えの場合と47万円以下の2パターンだけのため判りやすいです。

派遣で働くのなら自分の年金額をよく確認して、稼ぐとしたら幾らまで働けるのかを計算をしておきましょう。

参照サイト:老齢年金の支給停止|日本年金機構

60歳以上の方への求人の募集数の多い職種

実際に60歳以上で働く場合、どのような仕事があるのでしょうか。

複数の求人サイトで60歳以上の求人数をまとめました。

職種・業務名 求人サイト平均求人件数
清掃 61,236
医療 31,612
事務 24,137
軽作業 16,489
福祉 16,476
キッチン 14,571
警備員 12,786
配送・ドライバー 11,264
介護 8,947

※求人サイト3社(インディード・マイナビミドルシニア・タウンワーク)より独自に作成

清掃業が約6万件とずば抜けて求人が多く、2番目の医療がその半分ほどの件数で約3万件となります。傾向としては肉体労働系が多めです。

3位の事務仕事も今までの仕事の内容も活かせるものであれば採用される可能性も高くなるでしょう。

最近ではシニア層の方にただ仕事をこなしてもらうという目的ではなく、それまでの経験などを若手社員に教えてほしいという目的で採用をするところもあるので、事務のジャンルも狙い目かもしれません。

60代もまだまだ稼げる

メリット・デメリットはあるものの60代でも派遣の仕事はあり、特に清掃業は求人が豊富ということがわかりました。

注意しなければならないのは、稼ぎすぎると年金が停止されてしまうことです。働く場合は幾らまで働くのが良いのか、しっかりプランを考えなければなりません。

派遣は正社員のように安定してはいませんが、年金だけでは不安な部分を解消するには最適ではないでしょうか。

60代の方も、これから60代になる方も、派遣という働き方を検討してみてください。