派遣社員の最低賃金の決まり方。派遣会社と派遣先がある地域のどちらが適用される?

派遣社員の収入

派遣社員とはアルバイトやパートよりも時給が高いというメリットがあります。

しかしながら、地域により派遣社員の時給も異なり、同じ業種でも勤める地域によって収入が違ってくることに疑問や不満を持つこともあるでしょう。

バイトの時給もそうですが、北へ行けば行くほど、南へ行けば行くほど最低賃金に近い時給になっています。では派遣社員の場合の最低賃金はどのような形で決まっているのでしょうか。

そこで、ここでは派遣社員の最低賃金の決まり方について解説します。

そもそも最低賃金とは?

最低賃金とは、雇い主が従業員に支払わなければならない最低限の賃金額のことを指します。

最低賃金が高いということは、それだけ貰える賃金の下限が高くなるということです。

そして、その最低賃金には2種類あるというのも解説します。

1.地域別最低賃金:各都道府県に1つずつ定められた賃金

一般的に目にすることが多い最低賃金が「地域別最低賃金」でしょう。

各都道府県によって1つずつ定められた最低限の時給のことを言います。

まずは最低賃金のベスト・ワーストをそれぞれ確認しましょう。

地域別最低賃金ベスト・ワースト5

  • 地域別最低賃金ベスト5
順位・都道府県 時給
1位:東京 1,041円
2位:神奈川 1,040円
3位:大阪 992円
4位:埼玉 956円
5位:愛知県 955円

厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」を見ると、東京や神奈川のような都市部ほど最低賃金が高いことがわかります。

  • 地域別最低賃金ワースト5
順位・都道府県 時給
1位:沖縄 820円
2位:岩手・鳥取・愛媛・佐賀・長崎・熊本・宮崎・鹿児島 821円
3位:青森・秋田・山形・大分 822円
4位:島根県・徳島 824円
5位:福島県 828円

最低賃金が低い地域は沖縄や佐賀、長崎などの九州地方が強く目立ち、その次に岩手県や秋田県などの東北地域が続く形です。

北海道が例外として、北と南に行けば行くほど給料が下がっていく傾向にあると言えるでしょう。

また、全国平均時給は930円になります。

これを下回る最低賃金の都道府県は、最低賃金が低い土地と言うことができます。

2.特定(産業別)最低賃金:特定の産業に従事する方を対象に定められた賃金

それぞれの都道府県に最低賃金が定められているのとは別に、特定の産業で働く方ごとに定められている最低賃金が、特定最低賃金です。

ただし、特定最低賃金は地域ごとに決まっていますので、あくまで「地域別の特定産業における最低賃金」ということになります。

そこで気になるのは「地域別最低賃金と特定最低賃金」はどちらの賃金が優先されるかですが、決められた最低賃金が高い方が優先されます。

厚生労働省の「特定最低賃金の審議・決定状況」によれば、東京都の鉄鋼業は最低賃金が時給871円ですが、地域別最低賃金が時給1,041円です。

この場合、最低賃金がより高い後者の地域別最低賃金が優先されます。

また、同じ産業でも「鉄鋼業」では東京都が最低賃金871円で、千葉県は995円と設定されています。

東京は地域別最低賃金が非常に高いですが、「鉄鋼業」の最低賃金は、高く設定されていません。

このように、地域別最低賃金が高い地域が特定最低賃金も高いというわけではないというのは覚えておく必要があります。

派遣社員の最低賃金の考え方

最低賃金というのはシチュエーションによっては「どの最低賃金が適用されるのか」というのが少し難しくなります。

例えば、派遣社員の居住地・登録している派遣会社・派遣先がすべて別の都道府県にあった場合、どこの最低賃金が適用されるのかが紛らわしくなります。

「A県在住の派遣社員がB県の派遣会社からC県にある派遣先で働く」とすると、適用されるのはC県の最低賃金です。

それでは、派遣会社と派遣先が別で、なおかつ派遣先の業種がそこの特定最低賃金にあてはまる場合はどうなるかについても解説します。

「A県にある派遣会社からB県にある派遣先で働いている。しかし、派遣先の業種はB県の「特定(産業別)最低賃金」にあてはまる」という場合、B県の最低賃金が適用されます。

そして、B県の特定最低賃金が高い場合は、そちらが適用され、地域別最低賃金が高い場合は地域別最低賃金が適用されます。

参考:厚生労働省「派遣労働者の最低賃金は?

同一労働同一賃金は最低賃金に影響は出るのか

派遣社員と正社員の間にある不合理な待遇差を改善するために施行されたのが同一労働同一賃金です。

この同一労働同一賃金により、派遣社員は「派遣先均等・均衡方式」・「労使協定方式」の2種類にて待遇の改善が検討できるようになりました。

「派遣先均等・均衡方式」によって、派遣先にて派遣社員と同一の業務をしている正社員の賃金と派遣社員の賃金を比較し、派遣先から提供される情報に基づいて派遣社員の待遇を決めます。

「労使協定方式」は、派遣先地域の同種業務の正社員の平均的な賃金と比較し、地域・職種の平均賃金のデータを基に、法律に則って労使協定を作り、派遣会社と派遣社員が合意・締結します。

最低賃金に関連する問題は「労使協定方式」に基づいて決定と改善が見込めるということです。

また、派遣社員の賃金は厚生労働省からの平均データ、厚生労働省から提供される「職業安定業務統計の地域指数」などを基に決定されると考えることができます。

この職業安定業務統計の地域指数とは、以下のようになっています。

ハローワークで受理した無期かつフルタイムの求人に係る求人賃金(月給)の上限額と下限額の中間値の平均の全国計を100として、職業大分類の構成比の違いを除去
して指数化

引用元:厚生労働省「職業安定業務統計の地域指数

毎年10月は最低賃金の見直し!

最低賃金とは基本的に変わらないというものではありません。

毎年10月は最低賃金の見直しが行われますので、自分が働いている地域と、そこでの職種の最低賃金にどのような変化が起きたか確認しましょう。

そして、もしも自分の賃金が最低賃金を下回っている場合には、すぐに派遣先や派遣元に問合せをしましょう。

地域別最低賃金を払わない場合は最低賃金法によって50万円以下の罰金が課せられます。

そして特定(産業別)最低賃金以上の賃金を支払わない場合にも、最低賃金法によって30万円以下の罰金が課せられます。

これは、最低賃金未満の賃金を雇用者と労働者の間で同意を結んだ場合でも、最低賃金法違反の対象になるのを覚えておきましょう。

最低賃金上昇のメリット・デメリット

それでは、最低賃金上昇が持つメリットとデメリットをチェックしましょう。

最低賃金上昇のメリット

最低賃金が上昇することで派遣社員が受け取る最低賃金も上昇します。

派遣社員と正社員の大きな違いに賃金がありますが、最低時給が上がることで、派遣社員として働きやすくもなります。

また、派遣社員というのは企業への思い入れは湧きにくいですが、最低賃金が高い地域で働くということで、企業ではなく土地への思い入れを強めることができます。

他にも、高い賃金を求めて案件に募集した、より優秀な派遣社員と働き、キャリアを積むことができます。

最低賃金上昇のデメリット

最低賃金が高い地域というのは、それだけ周辺都道府県からの注目が高まります。

そのため、最低賃金が高い地域の案件の人気が高まり、簡単にはその案件で働けなくなるという可能性もあります。

また、雇用する側によっては人件費事態が膨らむので、募集が少なくなることもあります。

他には、最低賃金が高くなることで正社員との賃金差が狭まり、正社員からの目が厳しくなることもあります。

最低賃金を下回っていた時の対応とは

それでは、現在働いている職場が、最低賃金を下回っていた状態だった場合、どのように動くべきかもチェックしましょう。

まず、最低賃金未満の賃金を払ってはいけないことについては、最低賃金法で定められています。

第4条第1項

使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

 〃  第2項

最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。

引用元:厚生労働省「最低賃金制度とは

しかし、仮に法律で補償されていたとしても、上司に賃金の訴えをするのは非常に難しく、場合によってはいじめの危険も伴います。

自分の賃金が最低賃金未満とわかった場合、まずは同じ職場の信頼できる相手に相談しましょう。

派遣社員の場合は同じ職場で働く派遣仲間に相談するというのもおすすめです。

次に派遣会社に相談をするのが適切です。

これは、派遣社員というのが派遣先企業と派遣会社の合意による雇用契約に基づいて派遣されているからです。

派遣社員である以上は派遣会社の担当者に賃金について相談をし、雇用契約の見直しをお願いしましょう。

最低賃金未満で働くというのは罰金の対象ですので、この時点で解決する可能性が高いです。

そして、もしも派遣会社にお願いをしても賃金の見直しがされなかった場合は労働基準監督署に向かいましょう。

労働基準監督署への相談の仕方と方法

派遣会社でも最低賃金未満の賃金しか払ってもらえない問題を解決できない場合は、労働基準監督署に相談をしましょう。

証拠を集める

最初にすべきことは、労働基準監督署に動いてもらうための証拠を用意することです。

この場合は、毎月受け取っている賃金の「給与明細」を可能な限り集めるのが非常に有効です。

給与明細が無いという方は、通帳に振り込まれる賃金をスキャンするのがおすすめです。

派遣会社などにバレたくない場合はメール・電話で相談

労働基準監督署に駆けつけたことが知られると、周囲の評判が落ちる可能性があります。

悪いのは最低賃金を無視している企業なのはもちろんですが、これからも同じ派遣会社・派遣先で働くつもりの方は、できるだけバレないように対策を立てる必要があります。

身分を隠した匿名で労働基準監督署に相談をしたい方は、「労働基準関係情報メール窓口」にメールをするか、労働条件相談「ほっとライン」に電話をしましょう。

電話相談は月〜金曜日は17:00〜22:00、土・日・祝日は9:00〜21:00まで受付しています。

年末年始の12月29日〜1月3日はお休みなことに気をつけましょう。

確実に動いてもらうなら直接訪問

匿名の相談はできませんが、確実に賃金の見直しをしてもらいたい場合は、労働基準監督署に直接訪問をして申告・相談をしましょう。

最寄りの労働基準監督署がどこにあるのかは、厚生労働省の「全国労働基準監督署の所在案内」を参考にしましょう。

なお、大きな問題としてあるのが「労働基準監督署の受付時間が月〜金の8:30〜17:15」ということです。

平日の昼にしか相談・申告ができないので、休みが取れない職場の場合は、相談も申告も難しくなります。

派遣社員の最低賃金は今後もさらに上がっている

最低賃金は原則として常に上昇傾向にあります。

全国での平均最低賃金は2002年時点では時給663円だったのが、2020年には902円になっています。

20年間で全国平均最低賃金が時給が239円上昇しています。

このことから、派遣社員が受け取る最低時給もどんどん上がっていくことが予想されます。

派遣社員は派遣先企業の場所で最低賃金が変わる

派遣社員として働く上で意識しても良いのが派遣される地域になります。

最低賃金は勤務先で決まるようになっています。

このことから、派遣社員として働く上では最低賃金が時給953円の千葉よりも、最低賃金が時給1,041円の東京の方が賃金が上になるということです。

通勤面で時間がかかるという欠点はありますが、派遣社員として働く上で賃金をアップさせたいという方は、どこで派遣社員として働くのかという要素も意識するのがおすすめです。