派遣社員が社員旅行に行けないのは法的にOK? NG?
近年、個人の自由を重んじる世の中になってきていることから、会社においても業務に直接関係しない行事、たとえば飲み会や各種の行事を強要しないところが増えてきています。
社員旅行もそうで、以前強要していたような会社は自由参加に変わったり、以前から自由参加だった会社ではより「不参加」を表明しやすくなったり、あるいは、参加者が減ったことを理由に廃止した会社もあります。
こうした傾向を寂しいと思う方がいる一方、自由になっていいと感じる方もいるようですが、派遣社員の中には自分にはあまり関係のない話と考える方も多いでしょう。というのも、そもそも派遣社員が派遣先企業の社員旅行に行くケースはあまり多くないからです。
たとえ業務上の扱いが正社員とほとんど変わらないとしても、派遣社員が社員旅行に行くケースはまれです。
福利厚生の一環として社員旅行を企画する場合、その費用は会社側が負担するため、長期間にわたって雇用することになる正社員だけが対象となり、派遣社員は対象とならないことが多いのです。
旅行代金を積立するケースでは?
社員自身が旅行費用を会社に天引きの形で積立するケースでは、派遣社員も積立に誘われるケースがあるようです。
しかし、派遣社員が積立を行っても、社員旅行の前に辞めてしまう可能性があり、また、正社員に比べて少ない給料から旅行代金を天引きすることも、派遣社員にとってはマイナス面が大きいものです。そこで、そのようなケースもやはり非常に少ないと考えたほうがいいでしょう。
福利厚生に関する厚生労働省の指針
しかし、厚生労働省は2007年に告示した「短時間労働者および有期雇用労働者の雇用に関する指針」において、「事業主は、短時間労働者法第8条及び第11条に定めるもののほか、医療、教養、文化、体育、レクリエーション等を目的とした福利厚生施設の利用及び事業主が行うその他の福利厚生の措置についても、短時間労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮した取扱いをするように努めるものとする」としています。
つまり、レクリエーションなどの福利厚生に関しても、派遣社員やパートタイマー、アルバイトと、正社員との間に大きな差が生じないよう呼び掛けているのです。
これは法律ではなく努力目標として掲げられているだけですが、一部の企業ではすでに派遣社員やパートタイマー、アルバイトなどでも、正社員とほぼ同等の福利厚生を受けられるところがあります。しかし、社員旅行に関してはやはり、派遣社員が参加したという話はあまり聞かれません。
レクリエーションに関しては、全国の宿泊施設などを安く利用できる福利厚生サービスに企業として加入し、社員が自由にそれを利用できるといった仕組みを導入している会社も多くなっています。
そこで今後、労働者が平等に社員旅行に参加できるようになるというよりも、派遣社員やパートタイマー、アルバイトが、正社員と同様にそうしたサービスを利用できるという形で、福利厚生を公平に受けられるようになってくるという予想もできます。
派遣社員が社員旅行に行きたい場合はどうする?
派遣社員は社員旅行に参加できないケースが多いとはいえ、どうしても参加したいという方もいるかもしれません。
特にアットホームな部署で働いている場合、正社員だけが社員旅行に行き、派遣社員やパートタイマーはそこに参加できないというのは寂しいという方がいます。
また、その会社で働く期間が限られているからこそ、1つの思い出として社員旅行にも参加したいという方もいるようです。
いずれの理由でも、まずは派遣先の上司に社員旅行に参加できるかどうか打診することになりますが、この段階ではっきり「無理」「難しい」と言われたら、それ以上の交渉は難しいと考えてください。
参加交渉は絶対に無理?
もちろん、先に紹介した厚生労働省の指針を説明して交渉することもできます。しかし、あれはあくまでも指針であり絶対の決まりではありません。また会社全体の福利厚生のあり方を変更することにもなるため、派遣社員という立場での交渉は難しいでしょう。
それに、いったん「無理」といわれたことを強く要求するのも心証が悪く、今後の業務に影響する可能性も考えられます。
「自腹なら可」は本当は可でないことも
「旅行代金を自腹で払うなら可」と告げられた場合は参加できることになりますが、ほかの正社員の旅行代金が会社の福利厚生費でまかなわれているのであれば、「自腹なら可」という返答はやんわり断られていると解釈することもできます。その真意は、上司や周囲の社員の雰囲気からくみ取るしかありません。
一方、社員の給料から旅行代金を天引きして積立を行っている場合は、「自腹なら可」という告げられたなら、心置きなく参加していいでしょう。
派遣社員が社員旅行に行きたくない場合は?
一部の会社では派遣社員が社員旅行に誘われるケースもあるでしょう。
たとえば直前に挙げたように、社員の給料から旅行代金を天引きして積立を行っている場合では、最初から「派遣社員も参加可」と告げられるかもしれません。
こういう場合、旅行代金は自己負担になるわけですから、行きたくない場合は比較的断りやすいはずです。穏当に断るのであれば「行きたいけれど経済的に厳しい」ということをオブラートに包んで言えばいいでしょう。
誘う側も、派遣社員は正社員よりも給料が安いことを知っているので、しつこく誘ってくるケースはあまりないはずです。
強く誘われるケースはある?
ただし、福利厚生の一環として社員旅行を行う場合、正社員以外も含む労働者の半数以上が参加しなければならないという条件があるので、旅行参加者がその半数を切りそうな場合に、強く誘われるケースがあるかもしれません。
しかし、その場合、正社員の中にも不参加者が多いということでしょうから、かえって断りやすいはずです。はっきりした理由がなくても相手は引いてくれると考えられます。
ある調査では、会社員の6割が「社員旅行に行きたくない」と思っているという結果となっています。「仕事以外にまで上司に気をつかうのはイヤ」「社員と一緒の旅行なんて気が休まらない」「プライベートを見られなくない」「団体行動が苦手」などが主な理由です。
そうした傾向が会社員の中に広がっていることは広く認知されているので、断ることで角が立つ可能性は低いでしょう。
社員旅行が強制される会社も存在する
ただし、社員のチームワークを重視する会社の中には、社員旅行への参加が強制されるところもあります。福利厚生としての社員旅行では強制できないので、研修旅行などの名目で業務の一環として位置づけた上での強制参加です。その場合、旅行といっても業務扱いとなるので会社はその分の給料を出すことになります。
強制参加の社員旅行は正社員のみを対象とすることがほとんどですが、中には派遣社員も対象に含まれるケースもあります。
強制参加の社員旅行は断れる? 断れない?
平日(所定労働時間)の社員旅行であれば、それに合わせて有給休暇を取ることで回避できます。
一方、休日の社員旅行の場合、労働基準法36条に基づく労使間協定(36〈サブロク〉協定)が結ばれていれば「特段の事由」がない限り、その休日出勤命令を拒否できず、社員旅行に参加しなくてはなりません。
これは、労働契約上の業務命令にあたるので、そこで雇用されている限りは断れないのです。
ただし、派遣社員の場合、派遣先ではなく派遣会社(派遣元)の36協定が適用されるので、その範囲内でのみ派遣先は休日出勤を命じることができます。
こうした社員旅行の強制参加をパワハラと見なす意見も少なからずありますが、社風と関係する部分もあり、一様に否定しにくいのも事実です。もし、社内の雰囲気的に不参加を伝えにくいのであれば、派遣会社に相談してみるといいでしょう。
給料天引き+強制参加は基本的にアウト
なお、強制参加の社員旅行の旅費について給料から天引きする形で積立を行うことは、労働基準法24条違反となります(労使間の同意がある場合を除く)。
派遣先でこうしたことが行われていた場合、たとえ派遣社員はそこから除外されていたとしても、コンプライアンス的に問題のある会社ということになってくるので、後々何らかのトラブルに巻き込まれる可能性もあります。一度、派遣会社に相談してみたほうがいいでしょう。
社員旅行に行きたくない場合の上手な断り方4選
社員旅行に誘われたけれど行きたくないという場合、不参加者が多い職場なら普通に断ってかまいません。「お誘いありがとうございます。ただ、私は参加がちょっと難しいですね。皆さんで楽しんできてください」といった無難な受け答えで十分でしょう。
何か理由を添えたい場合でも、「家庭の事情で」などあいまいに答えておけば、派遣社員に対してそこまで深く追求されることはないと思われます。
しかし、強制参加の社員旅行が実施され、派遣社員もその対象に含まれるケースや、そこまでではなくても、社員旅行を強く勧められるようなケースでは、先にも挙げたように「特段の事由」が必要となってきます。
強制でなければ「絶対にイヤ」と単に拒否することもできますが、それでは職場の人間関係にしこりを残してしまうでしょう。
社員旅行を断る際の理由
そこで、ここでは社員旅行に行きたくない場合の上手な断り方、その理由について、次の4つのパターンに分けて紹介してみます。事実でないことを伝える場合、厳密にはウソということになりますが、「ウソも方便」というように、対人関係や社会生活を円滑に運ぶために必要なウソは社会通念上、許されるものと考えていいはずです。
①冠婚葬祭の予定がある
社員旅行の日程に、親族・友人の結婚式、地方の親族の法事などがちょうど重なるという理由であれば、仕方のない事情として受け入れられるはずです。
ただし、この以前にも似た理由で社員旅行やそのほかの会社行事などを断った場合は、ウソを疑われる可能性があります。追求されることはないと思いますが、印象は良くないかもしれません。
なお、社員旅行直前になって断る場合、親族の死去を理由にする方がいますが、さすがにそれは道義的な観点から止めたほうがいいでしょう。自分自身、後になって後悔することになりそうです。
②あらかじめ決まっている予定がある
社員旅行の日程に、資格試験の試験日、すでに支払いを済ませた旅行の予定日などが重なるという理由もまた、正当な理由として受け入れられやすいはずです。
そのほかの予定でも快く受け入れられる可能性はありますが、相手によって軽微な理由と思われかねない内容だと印象が悪いかもしれません。
たとえば、「コンサートの日程に重なってしまう」「好きなゲームの発売日に重なってしまう」といった理由だと相手によっては悪い印象を与えてしまう可能性があります。
③健康上の理由がある
病気やケガは急になってしまうものなので、事前に断る理由にはなりません。
「慢性的な病気でひんぱんに病院へ通院しなければならないので旅行に行けない」といった理由をつけることもできますが、何の病気が聞かれたときに答えに困ってしまいそうです。
もし、健康上の理由で社員旅行を断るなら、乗り物酔いや慢性腰痛などを理由にするのが最も通りがいいのですが、普段、出張などで長時間乗り物に乗っている姿を見られている場合、これは使えません。
また、食べ物や寝具などのアレルギーを理由にする方法もあります。
食べ物は普段とのつじつま合わせが難しい可能性があるので、寝具のアレルギーを理由にしたほうがいいでしょう。しかし、これについても、その職場で過去に出張の経験があれば使えません。
④家庭の事情がある
子どもやペットの世話、親の介護などを理由にすると、社員旅行を断りやすいでしょう。女性の場合、「夫や恋人が反対している」という理由も通りますが、これは派遣先の男性社員をセクハラ予備軍扱いしているようにも捉えられるので理由としては使いにくいところがあります。
社員旅行を断るときのコツ
社員旅行を断る理由については、普段の自分の行動を踏まえて矛盾がないものにしましょう。そこに矛盾があると後でつじつまが合わず、「平気な顔でウソをつく」という印象になってしまいます。
また、実際に断りの返事をするときに、いくつか心掛けたほうがいいことがあります。
たとえば、本音では「社員旅行なんてナンセンス」と思っていたとしても、そういう本音は胸に秘めておき、「本当は行きたいけれど、残念ながら行けない」といった雰囲気を見せたほうがいいでしょう。
それには、断るときに「(旅行先)、私も行ってみたかったんです」「楽しそうな行程でうらやましいです」といった言葉を添えてみるといいでしょう。
また、断るときに即答すると最初から行く気がないことが見透かされるので、健康面以外を理由にする場合、「スケジュール確認しておきます」とその場での返答は避け、1~2日くらい経ってから返答するのがベストです。
こうした心掛けを面倒に思う方もいると思いますが、社員旅行に限らず、望まないことを断りたいときにも応用できるので、角を立てないコミュニケーションスキルとして身に付けておくことをおすすめします。