初めて派遣社員として働く人が最低限知っておくべきルールや待遇、雇用形態

派遣社員の基礎知識

皆さんは転職を考えた時にまずは何を考えるでしょうか。正社員、契約社員、派遣社員、パート、アルバイト等の雇用形態をどうするかということが念頭にくるかと思います。

私はこれまで、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイトを経験しました。その中でも派遣社員として働いたのは中々良かった経験だと思っています。

最近ではネット検索や就活雑雑誌等で気になるお仕事を見つけたら派遣会社の求人だった、ということも少なくないでしょう。

良い求人を見つけて派遣会社に登録しに行く前に、派遣で働くということについて最低限の知識を身に着けてから派遣会社に登録したいものですよね。

ここでは、いざ派遣社員として派遣先に出向く前に、派遣社員として知っておくべき最低限のルールや待遇等を紹介します。

派遣社員のルール

皆さんが会社で働く時は、その会社の就業ルールというものに基づいて働きますよね。ご存知のとおり、正社員や契約社員では勤務先の会社のルールに基づいて働いています。

ただ、派遣社員の場合は少し違うのです。働く場所は派遣先の会社になるのですが、従うべき就業ルールは派遣会社のルールになります。ですから勤務先と雇用主が違ったり、有給休暇の使い方や福利厚生も他の雇用形態とは全く異なるのです。

ここからは派遣社員ならではの最低限知っておくべきルールについて説明していきます。

雇用主は派遣会社

正社員や契約社員・パート・アルバイトでは、直接企業と契約を結び、雇用主(企業)から直接給料をもらいます。

一方、派遣社員の場合は派遣先で働くのですが、派遣会社(派遣元)と雇用契約を結び、派遣会社から給料をもらうことになるため雇用主は派遣会社なのです。

厚生労働省のページにわかりやすい図がありました。

(以下図:厚生労働省「労働者派遣法が派遣労働者の保護と雇用の安定を図るため改正されました」)

上記の図のように、派遣社員(労働者)の雇用関係は三角で表され、派遣会社と派遣先が存在します。少しややこしいですよね。

業務指示は派遣先の会社の上司

当然のことですが、正社員や契約社員等の場合、業務指示や業務命令を出すのは派遣先の会社の上司です。

しかし派遣社員の場合、仕事をする際の業務指示は派遣会社からの指示ではなく、派遣先の会社の上司からの指示になります。

これは「派遣先での業務についての指示は派遣先に従う」というルールに基づいているためです。(参考:厚生労働省『派遣先の皆様へ』

ですから業務で分からないことや困ったことがあれば、基本的には派遣先の会社の上司に相談し、指示を仰ぎましょう。

ただ例外もあり、業務委託や業務請負の場合は、会社側から労働者に直接業務指示を出すことは禁止されています。

また、法律により派遣先は派遣社員に決められた範囲内でしか業務命令を命じることができません。(参考:厚生労働省『派遣先が講ずべき措置に関する指針』

この指針に基づいて、派遣会社は派遣先企業に対して契約内容の違反がないかどうか等、派遣会社は定期的に派遣先を巡回し、派遣社員に就業状況を確認するなどしています。

ですから、自分の派遣先に派遣会社の担当者が様子を尋ねてきた際には、悩んでいること等があれば遠慮なく相談すると良いでしょう。

ただ、実際のところ派遣社員に現況を聞くと「就業内容と違う業務もやらされている」という悩みを持つ人が多いそうです。そのような時はどうすればよいのでしょうか。

派遣社員は以下の労働基準法によって、契約内容と実際の業務内容が異なる場合に、労働契約を解除することができます。

労働基準法15条2項

前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

上記の通り、法律によって契約解除も許されることがありますので、万が一契約時の就業条件と違う内容の業務命令を受けているようであれば派遣会社の担当者に相談しましょう。

しかし、例えば事務職で契約書に書かれている業務内容が「一般事務」のような幅広い業務内容表現であったり、「受付、データ入力、それに付随する業務」のように、その他になんらかの業務があるという抽象的な表現がある場合は、お茶出しのような一見違った業務を命令されても契約違反には当たらない場合があるのです。また、派遣会社側で会社側の業務内容をきちんと把握していなかったケースもあります。

派遣会社と派遣社員の間だったり、企業側との間に「相違がある」というトラブルを回避するためには、派遣会社が提示する業務内容を前もってしっかりと確認し、細かな部分の把握もした上で契約を結ぶことが必要です。

派遣社員が同一職場で働くことができるのは3年まで

せっかく新しい仕事に就いて業務にも慣れてきたのだから、できればこのまま同じ職場で長く働きたいと思うのは当然のことですよね。

しかし、派遣社員が同じ職場にいられる期限というのが存在しているのはご存知でしょうか。

労働者派遣法により、派遣社員の個人単位による期間制限は、3年が限度となっています。

では3年後には必ず退職しなければいけないのでしょうか。

実は同じ職場でも、違う部署(課)に異動した場合、異動から再度カウントされ、期間制限がまた3年間となります。あくまでも、同じ職場の同じ部署にいられる期限が3年間という法律なのです。

同じ企業の同じ部署で働きたい場合は、引き続き同じ派遣先で働きたいという希望を派遣会社に伝えましょう。

派遣会社は3年以上同一職場での就業を希望する人に対し、企業側に直接雇用の依頼をするということが義務付けられています。その為、少なからず派遣先企業で直接雇用してもらえるチャンスがあるのです。

ただ、実際に派遣社員から直接雇用になるというのは結構厳しいのが現状でしょう。

契約期間中の退職は原則不可(更新しないことで契約終了)

派遣先で働き始めたけれど、仕事内容が合わない等の理由で退職を考えることもあるでしょう。

もしそれが契約期間中であったとしても、すぐに退職は認められるのでしょうか。

実は、最初の雇用契約で提示された契約期間は原則として守る必要があるため、契約期間の途中で退職することはできません。(厚生労働省『労働契約の終了に関するルール 2:期間の定めがある場合』)

ですから契約前に「更新がある仕事なのか、更新がない1度きりの仕事なのか」を把握しておく必要があります。

何故なら、最初に提示された契約期間が半年と言われていた場合でも、契約終了月が近くなると再度派遣先から契約更新を提案される場合もあるからです。

契約更新の1か月前くらいに派遣会社に更新の意思を聞かれますので、契約を更新するか否かを伝えることになります。更新をしないということでしたら今回で契約は終了です。

契約を更新すると再度派遣先から新しい契約期間が提示された契約書が渡されます。

よっぽどの理由がない限り、更新された後はその契約期間が終わるまで退職はできませんので心しておきましょう。

有給休暇や福利厚生

派遣社員の有給休暇や福利厚生はどうなっているのでしょうか。

有給休暇は、派遣社員として就労開始してから6か月目に10日間取得できます。ただし全労日の8割以上の出勤をしていることが条件です。

厚生労働省による有給の付与日数は以下の図を参考にしましょう。(参考図:厚生労働省「有給休暇の付与日数」)

上記表(1)の通り、フルタイムで働く労働者の場合、就労開始から半年目に初めての有給が10日間付与され、その後は1年ごとに所定の日数が加算されていきます。

例えば1月1日から勤務開始した場合、半年後の7月1日に10日間の有給休暇が取得でき、さらにその1年後は11日分の有給休暇が付与されるというわけですね。

次に、週4日以下で週の労働時間が30時間未満の人の付与日数を見てみましょう。

例えば週3日で1日7時間労働の人の場合、週の所定労働時間は21時間ですから、上記の表(2)が対象になるわけです。そして半年後に付与される有給休暇は5日ですね。

いずれにしても半年後に有給休暇を取得できることには変わりないのですが、フルで働く人に比べると有給休暇の付与日数は大分少なくなります。

ここで、せっかく有給休暇を取得したにも関わらず契約期間内に使用しなかった場合、この有給休暇は消えてしまうのかという疑問が残りますね。

実は派遣の場合、契約が終了しても1カ月以内に同じ派遣会社から紹介された仕事に就けば、取得した有給日数を引き続き利用することが可能です。

ですから、有給休暇を取得しても使用せずに残っているのであれば、次の仕事も同じ派遣会社で紹介してもらった方が得でしょう。

ちなみに有給休暇の消化率ですが、全国で見ると平成30年(2018年)時点で51.1%となっています。二人に一人は有給休暇を消化できているようですね。(参考:厚生労働省「年次有給休暇の取得率等の推移(全国)」

実際に私が派遣社員として働いていた会社でも、派遣社員は有給休暇を取得することが容易にでき、早退や遅刻にも理解を示してくれました。派遣会社からは「会社側に有給休暇を取得することを相談し、業務に差し支えないようであれば消化して構いません。」と言われていましたし、やむを得ず休んだ日でも有給休暇に充てることができたのです。

ただ派遣会社によっては違う場合もありますので、詳しくは派遣会社に確認する必要があります。

次に福利厚生についてですが、派遣先で就労を開始して2か月を超える、もしくは2か月を超える見込みのある場合、社会保険に加入できる派遣会社が多いです。

ここでいう社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・労働者災害補償保険のことを指します。

また、週の所定労働時間が20時間以上かつ1年以上の雇用見込みがあれば、雇用保険に加入することも可能です。

雇用保険加入の対象になれば、万が一失業した場合でもハローワークから失業給付金が支給されるので大変助かりますよね。

日雇い派遣の禁止

2012年の派遣法改正により、労働契約期間が30日以内の日雇い派遣が禁止されました。これは1日のみの単発の仕事から、最大30日以内の仕事が対象となっています。

単発の仕事は業務内容や人間関係に悩むことも少ないため比較的人気があったのですが、残念ながら禁止されてしまったのです。

派遣法改正後は、31日を超える仕事であれば派遣が可能となりました。

また、日雇派遣であるかどうかの判断の例は以下の通りです。(以下参考:厚生労働省「改正により原則禁止される短期の派遣(=日雇い派遣とは」)

(1) 労働契約の期間が1日の場合(例 10月6日の1日のみの仕事の場合) → 日雇派遣にあたる
(2) 労働契約の期間が30日の場合(例 11月の1ヶ月間の仕事の場合) → 日雇派遣にあたる
(3) 労働契約の期間が31日の場合(例 12月の1ヶ月間の仕事の場合) → 日雇派遣にあたらない
(4) 労働契約の期間が10月1日から11月30日の場合で、複数の短期の仕事を組み合わせて行う場合 → 日雇派遣にあたらない
(5) 労働契約の期間が14日間で、元々1年間の労働契約を結んでいたが、業務上の都合で延長の必要性があり、追加で新たに結ぶ場合 → 14日間の新たな契約は日雇派遣にあたる

ただし例外もあり、下記のいずれかに当てはまる場合は日雇い派遣が認められています。

  • 60歳以上
  • 雇用保険の適用を受けない学生(昼間学生)
  • 正業収入が500万円以上で副業として従事する方
  • 世帯収入が500万円以上で主な生計者以外の方

上記に該当する場合は、働き始める際に年齢を確認できるものや学生証、収入を確認できる書類の提示などが必要です。

その他、仕事の種類によっても禁止の例外として認められている業務もあります。

派遣社員の待遇

ここまでは派遣社員としての働き方のルールについて説明しました。

しかし、就活をするに当たって一番気になる部分はやはり待遇でしょう。

派遣社員の平均時給はどれくらいなのでしょうか。また、時給だけでなく交通費やボーナスの支給も気になるところですよね。

ここからは派遣社員の待遇について説明していきます

給料

一般的に言われる「派遣社員」は基本的に時給制です。

ただ、平均的な時給は業種や地域によって差があります。JBRC(ジョブズリサーチセンター)の最新市場データ(2019年3月時点)によると、三大都市圏の平均時給は約1,630円。8時間労働の場合、月給28万円となり、年収で計算すると約340万円です。

この数字は高いと感じる方もいれば、安いと感じる方もいるでしょう。

しかし実際に他の雇用形態と比べて、トータル的に見るとどうなのでしょうか。

派遣社員の場合、予定外の残業があってもしっかりとその分の時給が出ますので損はしません。

しかしこれが正社員の場合はどうでしょう。「正社員にストレスは付きもの」とは言い切れませんが、中にはサービス残業や休日出勤などを強いる会社も多く存在しています。

その場合、時給に直すと派遣社員の方が給料が高い場合もあるのです。

休日

派遣社員の休日数または休日の曜日については、派遣先企業の勤務体系によって異なります。

派遣先の会社が暦通りの休日であればもちろん派遣社員もその通りの休日です。

「休みは多い方が良いに決まっている」という声が聞こえてきそうですが、果たして本当にそうなのでしょうか。

ここで注意すべきポイントは、派遣社員は時給制ということです。

例えば正月休みやGWのような大型連休・お盆で派遣先が連休だった場合、その分派遣社員の出勤日数も当然減りますね。

そうすると、派遣社員の場合は出勤した日数分しか給料が入りませんので、このような長い休みがある月は特に給料が減ります。

例を挙げて考えてみましょう。

2019年の5月はゴールデンウィークがあり5月1日から5月6日までが休日でした。派遣先が暦通りの休日の場合、5月の連休6日間分の給料も入らず、その他に土日分も給料が入らない、つまり19日分の給料しか入りません。

この場合、時給1,600円で8時間労働の派遣社員の場合の給料は以下の計算によって求められます。

日給12,800円×19日=5月の給料は243,200円

休日1日につき12,800円無くなるのですから、休日が3日であれば給料が38,400円減るのです。これは結構な痛手ですよね。

休みよりも給料を重視するか、給料よりも休みを重視するかは人それぞれですが、いずれにしても契約前に派遣先の休日をしっかりと確認することが大事ですね。

交通費

派遣会社は交通費の支給がないところがほとんどですが、中には交通費が支給される会社もあります。

ただ交通費が支給されるとしても、その分時給が安めに設定されていることも多いでしょう。

ただし、「紹介予定派遣」といって、派遣先企業にて一定期間派遣社員として就業し、その後会社の直接雇用になる場合は、直接雇用後の交通費は会社の労働契約に基づいて支給されることになります。

ボーナスの有無

派遣社員にはボーナスはありません。

ただ、ボーナスがないからと言っても一概に正社員のほうが年収が良いとは限りません。何故なら時給換算すれば派遣社員の方が給料が高い会社もあるからです。

単純にボーナスがほしい場合は正社員を目指すのも良いと思いますが、ここで一つ例を挙げて計算してみましょう。

例えば正社員で働いているAさんの給料は月給23万円だとします。

月給23万円+ボーナス年2回=年収約322万円

ただ、正社員であるが故にサービス残業もあるでしょうし、休日出勤もあるかも知れません。

それに対し、時給1600円の派遣社員Bさんの給料は時給1600円だとします。

時給1,600円×8時間労働=月給約28万円 年収337万円

こうなると派遣社員Bさんの方が給料が高いですよね。

このように、ボーナスなし交通費なしでも時給換算すれば正社員よりも給料が高くなるケースもあるのです。

産休・育休

女性であれば考えられる、妊娠や出産。

派遣社員が契約期間中に妊娠した場合はどうなるのでしょうか。

妊娠や出産について、法律で定められているのは以下の通りです。(以下参考:男女雇用機会均等法第9条第3項)

妊娠・出産などを理由に、解雇その他不利益な扱いをしてはならない

上記法律は、雇用形態を問いませんので、当然派遣社員も対象になっています。つまり派遣社員が妊娠したからと言って契約解除されることはまずありません。

さらに育休・産休の対象にもなっています。

産休は「産前休業」と「産後休業」で分かれていて、産前休業は出産の予定日から遡って6週間前から派遣会社に請求すれば取得可能です。赤ちゃんが双子以上の場合は、14週間前から取得することができます。

また産後休業は、労働基準法により出産の翌日から8週間は必ず取得することが義務付けられているものです。ただし、就業意思があり医師が認めた場合は産後6週間から働くことが可能とされています。

育休についての法律の一部を見てみましょう。

(以下引用:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第5条 一部抜粋)

第5条 労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。ただし、期間を定めて雇用される者については、次の各号のいずれにも該当するものに限り、当該申出をすることができる。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者
二 その養育する子が 1歳に達する日(以下「1歳到達日」という。)を超えて引き続き雇用されることが見込まれる者(当該子の1歳到達日から1年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことが明らかである者を除く。)

上記法律の通り、雇用契約に期間の定めがある派遣社員の場合は、以下2つの条件を満たしていることが条件になっています。

  • 派遣会社と「1年以上」の雇用契約があること
  • 子どもが1歳6ヵ月になるまで雇用契約がなくなることが明らかでないこと

そもそも派遣会社で就労して1年以上働いていないと対象ではありません。

また、育休の申請期限は育休開始予定日の1ヶ月前までと法律で定められているので、それまでに申し出ることが必要です。

育休の期間については、子供が1歳6か月に達するまでの期間となりますが、もし保育所待ちの状態で仕事に戻れない等のやむを得ない理由がある場合は、子供が2歳になるまで再延長ができます

このように、派遣社員であっても産休や育休は取得できますから、働く意思があるのに何も言わずに会社を辞めてしまうのは勿体ないことです。

産休・育休制度を利用して、仕事もプライベートも充実したものにしたいですね。

まとめ

今回は派遣社員として働く上で最低限知っておくべきルールや待遇について説明しました。

派遣社員に対するイメージは何となく湧いてきたでしょうか。

待遇面で考えると、派遣社員だからと言って一概に給料が低いとは言い切れず、逆に正社員より高い場合もあるということも分かりましたね。

まずは転職するに当たって自分が求めるものは何かということを考えることが大事です。

そして、給料の額だけにとらわれず、交通費や残業代等も含めてトータルで良い条件かどうかを見極めることができれば、納得のいく転職先を見つけられるでしょう。